実戦編
A 文のいろいろな終わり方
1 推量・意志の「む」をともなう場合1
1994年に出題された実際の入試問題では、傍線部分の解釈問題にいくつかのパターンがあることにきがつく。実戦編では、よく出題されるパターン別に問題を研究してみよう。
まず、推量・意志の助動詞「む」やその系列の助動詞をふくむ文がよく出題されている。これは、解釈がむずかしいためだが、文型1-7、文型6などでまなんだことを基礎としてとりくむことができる。
A-1-1では「む」「らむ」「けむ」をとりあげ、「べし」をふくむ例と、疑問や反語の例はあとでとりあげる。
1なりなむ 動詞「なる」連用形+完了「ぬ」未然形+推量「む」
2すさまじきのみにこそあらめ 形容詞「すさまじ」連体形+副助詞「のみ」+断定「なり」連用形+係助詞「こそ」+補助動詞「あり」未然形+推量「む」已然形
3おこたりならばこそあらめ 名詞「おこたり」+断定「なり」未然形+仮定「ば」+係助詞「こそ」+補助動詞「あり」未然形+推量「む」已然形
事実の反対をのべる。
4みるらむ 動詞「みる」終止形+「らむ」終止形
4については次のカードの文型の説明でもとりあげる。
1あるらん 動詞「あり」連体形+「らむ」連体形
この例については次のカードの文型の説明でもとりあげる。
A 文のいろいろな終わり方
1 推量・意志の「む」をともなう場合2
推量の助動詞には「む」のほかに、
「らむ」 現在のことを推量する。
「けむ」 過去のことを推量する。
「めり」 見ていて、そのようだと推量する。
などがある。
(まえのカードの例で、
みるらむ 動詞「みる」終止形+「らむ」終止形
あるらん 動詞「あり」連体形+「らむ」連体形
をあげてある)
また、「ものせむと す」というくみあわせがあって、これが「ものせむず」という言い方でよくあらわれ、「むず」という助動詞としてあつかわれる。「・・しようとする」という意志的な意味になる。
1すごしたまはざりけむ 動詞「すごす」+尊敬「たまふ」未然形+打消「ず」連用形+「けむ」
2のぞむべきなめり 動詞「のぞむ」+当然「べし」連体形+断定「なり」連体形の省略形+「めり」
3するなめり 動詞「す」連体形+「らむ」「めり」は終止形に接続するが、ラ変型には連体形に接続する。
4いできなむず 「いでく」連用形+ 強調「ぬ」未然形+「むず」
1さうらはんずれ 「むず」已然形
2まゐらんずらん 「むず」終止形+現在推量「らむ」
A 文のいろいろな終わり方
2 「べし」をともなう文
推量・意志・当然などの意味をもつ「べし」も解釈のむずかしい助動詞である。これについては文型1-8であつかったが、ここでは、意志、仮定条件のもとでの推量をあげる。
また、「べらなり」という「べし」から派生した助動詞をあげる。意味は「・・ようだ」。
「まし」については事実に反する仮定条件の例をあげたが(文型10-2応用)、さらに意志の例をあげてある。
1つかうまつるべし 謙譲動詞「つかうまつる」終止形+「べし」意志
2うしろめたうなんはべるべき 形容詞「うしろめたし」連用形ウ音便+なん+丁寧補助動詞「はべり」連体形+べし 推量。
3はかるべらなる 動詞「はかる」終止形+「べらなり」連体形
4えてまし 動詞「う」連用形+完了「つ」未然形+「まし」 意志。
A 文のいろいろな終わり方
3 命令(禁止)の文
命令の文については文型5、希望の文については文型7でとりあげたが、このタイプもよく出題されているので、さらにいろいろな例で練習しよう。
命令では、「な」「な・・そ」をつかって禁止をあらわす例をあげる。
「な」は強い禁止で、「な・・そ」は「してくれるな」という意味であるといわれる。
1せさせたまふな 動詞「す」+使役「さす」+「たまふ」終止形+禁止「な」
2ないそ 動詞「いる」連用形+「な・・そ」
3なみせそ 動詞「みす」連用形+「な・・そ」
4ないそぎそ 動詞「いそぐ」連用形+「な・・そ」
1おもひないれそ 動詞「おもひいる」連用形+「な・・そ」
「な」が複合動詞のあいだにはいりこんでいる。
A 文のいろいろな終わり方
4 希望の文
希望の文では、「もがな」と「なん」をつかった例が出題されている。
「もがな」は名詞やその他の単語について希望をあらわす終助詞である。
「なん」は未然形について希望をあらわす終助詞である。もし、これが連用形に接続していると、完了「ぬ」未然形+推量「む」と分析されることになる。
よみなん 読んでしまうだろう 完了+推量
よまなん 読んでほしい 希望
1よしもがな 名詞「よし」+「もがな」
2わざもがな 名詞「わざ」+「もがな」
3まかせずもがな 動詞「まかす」未然形+打消「ず」連用形+「もがな」
4いはでもあらなむ 動詞「いふ」未然形+打消接続助詞「で」+「も」+補助動詞「あり」未然形+「なむ」
A 文のいろいろな終わり方
5 打消その他のかたち1
文のいろいろな終わり方の最後に、打消とそれ以外のいろいろな形の文に関する出題を取り上げる。
「しかず」は動詞「しく」の打消である。この動詞はふつう打消形で使われ、「・・におよばない」「・・が一番だ」という意味を表す。
「さにも あらず」は、副詞「さ」+断定「なり」連用形+「も」+補助動詞「あり」未然形+打消「ず」。「さなり」が「そうである」だから、打消は「そうでない」。
最後の例は、係り結びの例。
1わすれざりけり 動詞「わする」未然形+打消「ず」+過去「けり」。
2しかず 動詞「しく」未然形+「ず」。
3さにもあらず 副詞「さ」+断定「なり」連用形+「も」+補助動詞「あり」未然形+「ず」
4しける 動詞「す」連用形+過去「けり」連体形。 「ぞ」の結び。
A 文のいろいろな終わり方
5 打消その他のかたち2
「とてなり」は格助詞「とて」+断定「なり」で、「とて」は引用をうけて「・・といって」の意味になるから、「と言ってである」と解釈できる。おなじような使い方で、「となり」は「・・という意味である」となる。
「かな」は文の最後について感動を表す終助詞。
さいごの2例は、形式名詞で文がおわる例。いずれも名詞が述語になるときの規則に従って、断定の助動詞「なり」をしたがえている。