ここでは、形容動詞が述語になっている。形容動詞も過去の助動詞、推量の助動詞とくみあわさる。
あはれなり あはれなる あはれなれ
あはれなりき あはれなりし あはれなりしか
あはれなりけり あはれなりける あはれなりけれ
あはれならむ あはれならむ あはれならめ
あはれなるべし あはれなるべき あはれなるべけれ
あはれなれ(命令形はあまりつかわない)
1むげなり 形容動詞「むげなり」終止形。
2うつくしげなり 形容動詞「うつくしげなり」終止形。
「げ」は形容詞から形容動詞をつくる接尾辞
3ものあはれなり 形容動詞「ものあはれなり」終止形。
「もの」はあまり意味のない接頭辞。
4まれなり 形容動詞「まれなり」終止形。
名詞が述語にあらわれるとき、「−なり」の形をとる。
「なり」は断定の助動詞といわれるが、じっさいは、名詞を述語にするコピュラといわれるものである。述語になっている名詞も、過去・推量のかたちをとる。
山なり。 山なる。
山なれ。
山なりき。 山なりし。
山なりしか。
山なりけり。 山なりける。 山なりけれ。
山ならむ。 山ならむ。
山ならめ。
山なるべし。 山なるべき。 山なるべけれ。
山なれ。(命令形はあまり使われない)
1深山木なり 名詞「みやまぎ」+断定「なり」。
2事なり 名詞「こと」+「なり」。
34ものなり 名詞「もの」+「なり」
1限りなり 名詞「限り」+「なり」
2ほどなり 名詞「ほど」+「なり」
「こと」「もの」「かぎり」「ほど」などは、物ではなく、抽象的な意味をもって、文を形式的にととのえるはたらきをするので、形式名詞といわれる。
ここでの例文の前のふたつ(1,2)は、終助詞がついたり、過去の助動詞などがつく例である。
さきの形容動詞と名詞が述語になっているとき、形容詞の場合とおなじく、「あり」で代表される補助動詞とくみあわさっていることがある。あとのふたつの例(3、4)はこれである。
悩ましげに おはす 悩ましげに 侍り
人に おはします 人に 侍り
など。
1際高なる きはだかなる と読む。
御もてなしなりや 名詞「もてなし」+「なり」終止形+終助詞「や」。御 は接頭辞。
2たよりなりけり 名詞「たより」+「なり」連用形+過去「けり」。
3悩ましげにおはす 形容動詞「なやましげなり」連用形+補助動詞・尊敬「おはす」終止形。
4人に侍べり 名詞「人」+断定の助動詞「なり」連用形+補助動詞・丁寧「はべり」。
ここでは、否定文をまなぶ。述語が「−ず」の形をとっている文は、否定文である。「ず」は否定または打消の助動詞といわれる。文型1から7でとりあげた文には、原則的に、それに対応する否定文がある。
よむ よみき よみけり よみつ・・
よまず よまざりき よまざりけり よまざりつ・・
1おこたりたまはず 動詞「おこたる」連用形+尊敬「たまふ」未然形+「ず」
2いたまず 動詞「痛む」未然形+
3かけず 動詞「かく」未然形+
4きこしめさず 尊敬の動詞「きこしめす」未然形+
1たがはね 動詞「たがふ」未然形+打消「ず」已然形。 強調。
2さぶらはざりき 丁寧の動詞「さぶらふ」未然形+「ず」連用形+き
3しらせざりけり 動詞「しらす」未然形+「ず」連用形+「けり」
打消の推量または意志
よまじ
「じ」は打消の推量または意志の助動詞といわれる。
終止形「じ」以外の形はほとんどつかわれない。
「よまざらむ」の形は漢文訓読にもちいる。
可能の打消、すなわち不可能
文型1-10でのべた可能に対して、不可能は、
よまれず
え よまず え よまじ
の形がつかわれる。
1いでたまはじ 動詞「いづ」連用形+尊敬「たまふ未然形+打消推量「じ」終止形。
2いれじ 動詞「いる」未然形+打消意志「じ」終止形。
3えしのびあへたまはず 動詞「しのびあふ」連用形尊敬「たまふ」未然形+不可能「え・・ず」終止形。
4えにくみたまはじ 動詞「にくむ」連用形+尊敬「たまふ」未然形+不可能・推量「え・・じ」終止形。
打消の命令、すなわち禁止
よむな
な よみそ
「な」は禁止の終助詞。「な」は終止形のあとにつく。
「な・・そ」は、副詞+終助詞。「な」と「そ」のあいだには、連用形がくる。
「よまざれ」の形は漢文訓読にもちいる。
1なありきそ 動詞「ありく」連用形+禁止「な・・そ」。
2なみたまひそ 動詞「みる」連用形+尊敬「たまふ」連用形+禁止「な・・そ」。
3もらすな 動詞「もらす」終止形+禁止の終助詞「な」。
4みせたまふな 動詞「みす」連用形+尊敬「たまふ」終止形+「な」。