文型5は命令文の形である。命令文には主語はあらわれてこない。述語は動詞の命令形である。
文型
1 平叙文 主語--述語・終止形。
2 強調文 主語--(ぞ・なむ)--述語・連体形。
4 主語--(こそ)--述語・已然形。
3 疑問文 主語--(や・か)--述語・連体形。
5 命令文 述語・命令形。
禁止については、くわしくは打消の文型8で。
1たまへ 尊敬の「たまふ」の命令形。
2ひきいでよ 動詞「ひきいづ」の命令形。
3醒めたらん さめ と読む。「ん」 は推量「む」(意味は仮定)連体形。推量についてはあとで。
4とへかしな 動詞「とふ」命令形+終助詞「かし」+終助詞「な」。
1異君達 こときんだち と読む
おぼしおとすな このばあいの 「な」は禁止の終助詞。
2せさせ 動詞「す」+使役「させ」たまひそ 「そ」は禁止の終助詞。
文型としては、主語--述語である。述語の形が、動詞の未然形+む である。このかたちは推量をあらわす。「む」は「ん」とも書かれ、推量の助動詞であるといわれる。
推量の「む」は、過去の助動詞と同様、完了の助動詞とくみあわさり、また、連体形「む」、已然形「め」のかたちで、強調文、疑問文の述語にもつかわれる。
つ てむ ぬ なむ
たり たらむ り らむ
1あらん 動詞「あり」の未然形+む
2み 動詞「見る」の連用形
たてまつらむ 謙譲「たてまつる」の未然形+む
4なくば 仮定条件の形なので、文全体としては、実際はそうでなかった という意味になる。
うしなひてん 動詞「うしなふ」連 用形+完了「つ」未然形+む
1いかにても ここでは疑問詞ではない。
候ひなん さぶらひなん と読み、「あり」の謙譲語連用形+完了「ぬ」未然形+む。
「どのようにでもいますでしょう」が直訳。
疑問の推量。 反語。 過去の推量。
推量の形は疑問文のなかにもつかわれる。
推量の疑問文はしばしば反語の意味をもつ。
推量「む」は、過去「き」「けり」とは組合わさらない。過去の推量は連用形+助動詞「けむ」をつかう。「けむ」は「けん」とも書かれる。
よむ よみつ よみぬ よみたり
過去 よみき よみてき
よみにき よみたりき
よみけり よみてけり
よみにけり よみたりけり
推量 よまむ よみてむ
よみなむ よみたらむ
よみけむ よみてけむ
よみにけむ よみたりけむ
命令 よめ よみてよ よみね よみたれ
1か 疑問の係助詞。
あらむ む は連体形。
2奉らん 謙譲の「たてまつる」未然形+「む」連体形。反語。
3おぼさむやは 尊敬語「おぼす」未然形+む+疑問・反語の終助詞。
文末に疑問の「や・か」がつくのは疑問文のもうひとつの文型。「やは・かは」はしばしば反語。
4きこしめしけむ 「きく」の謙譲語連用形+けむ。
はべりけん 「あり」の丁寧語「はべり」連用形+けむ。
これも述語が「−む」のかたちであるが、はなし手の意志をあらわしている。このとき、主語はかならず一人称である。主語が三人称のときは、推量をあらわす。
主語 述語「−む」。
三人称 推量
一人称 意志
助動詞「む」の用法は、このように推量と意志があり、さらにそれ以外の意味もあるが、おおきく推量の助動詞とよばれる。
1みせ 動詞「見す」の連用形。
2第二例 主語が省略されているときは、一人称のばあいがおおい。
4母にだに 副助詞「だに」は、「せめて」「でさえ」。
告げ 動詞「告ぐ」の未然形。
1ことならば、 仮定の言い方。あとでとりあげる。
痛うとも 形容詞「痛し」連用形「痛く」ウ音便+とも 逆接の言い方。あとでとりあげる。
念じて 動詞「念ず」連用形+て がまんして
疑問文、強調文のなかの意志。
意志をあらわす助動詞「む」は、強調文、疑問文の述語にももちいられる。
平叙文 強調文(ぞ・なむ)疑問文 強調文(こそ)
む む め
てむ てむ てめ
なむ なむ なめ
たらむ たらむ たらめ
らむ らむ らめ
意志の助動詞のもちいられている疑問文は希望の意味になることもある(第3例)。また、反語の意味をあらわすことがある(第5例)。
1いつしか ここでは疑問詞ではなく、早く という意味。
参り来む ーこむ と読む。「こ」は動詞「来(く)」の未然形。
2のぼりなん 動詞連用形+な+む。
3給はらん 「もらふ」の謙譲語「たまはる」未然形+む連体形。希望
4たとへてむや 動詞「たとふ」連用形+完了「つ」未然形+む。
文の最後に疑問の終助詞「や」がついて、疑問文になっている。
2奉らむ 謙譲語「たてまつる」未然形+む連体形。反語の意味。