述語が「−る」「−らる」でおわると、受け身の動作をあらわす。「る」「らる」は受け身の助動詞といわれ、動詞の未然形に接続する。動詞の四段・ナ変・ラ変には「る」が、それ以外には「らる」がつかわれる。
ほむ ほめらる ほめられき ほめられけり・・
ほむる ほめらるる ほめられし ほめられける・・
ほむれ ほめらるれ ほめられしか ほめられけれ・・
1ゆるさる 動詞「ゆるす」未然形+
2ながされたまふ 動詞「ながす」未然形+「る」連用形+尊敬「たまふ」
3さわがれき 動詞「さわぐ」未然形+「る」連用形+過去「き」
4おぼされけり 尊敬「おぼす」未然形+「る」連用形+過去「けり」
1おされたまへり 動詞「おす」未然 形+「る」連用形+尊敬「たまふ」已然形+完了「り」
「る」「らる」が完了の助動詞とくみあわさる例は、あまりおおくない。
「−る」「−らる」の形の述語は、受け身以外に、自然にそうなる意味の動詞のばあいは、自発、打ち消しの形などで、可能、すでに敬語法でのべた尊敬(文型1-9)の意味でつかわれていることがある。
これらの意味の区別は、なかなかむずかしいが、上にのべた順で可能性をあたっていくしかない。
受け身に対して、使役の形は使役の助動詞「す」「さす」「しむ」によってつくられる。これらも、尊敬の意味をあらわすことがある。使役は人に何かさせる、という意味になる。(さいごの例)
1思い出られたまふ 動詞「おもひいづ」未然形+「らる」連用形
2なかれけり 動詞「なく」未然形「る」連用形+過去「けり」
4動かれず 動詞「うごく」未然形+「る」未然形+打消の助動詞「ず」
打ち消しの形についてはあとであつかう。
1かかせたまふ 動詞「かく」未然形+「す」連用形+尊敬「たまふ」
使役の形は、かかせき かかせけり などの形でもあらわれる。
主語であらわされているものが、どんなであるかをいうときは、述語に形容詞があらわれる。
述語になる形容詞も、終止形以外に、連体形、已然形であらわれることがある。
終止形 連体形 已然形
にくし にくき にくけれ
おそろし おそろしき おそろしけれ
1みきくも 動詞「みきく」連体形+係助詞「も」
この連体形の用法はあとでとりあげる。「なきこそ」「かはられけるこそ」も同様
かなし 形容詞「かなし」終止形。
2うらめしき 形容詞「うらめし」連体形。 「ぞ」の結び。
3さうざうしけれ 形容詞「さうざうし」已然形。 「こそ」の結び。
4ありがたけれ 形容詞「ありがたし」已然形。
守の 助詞「の」のついた形が主語をあらわしている。
形容詞からなる述語も過去の形をとることがある。このとき、動詞とおなじように過去の助動詞「き」「けり」があらわれる。命令形はあまり使われない。
しろし しろき しろけれ
しろかりき しろかりし しろかりしか
しろかりけり しろかりける しろかりけれ
しろからむ しろからむ しろからめ
しろかるべし しろかるべき しろかるべけれ
1うつくしかりき 形容詞「うつくし」連用形+過去「き」
2かしこかりけり 形容詞「かしこし」連用形+過去「けり」
3くるしからむ 形容詞「くるし」未然形+推量「む」連体形 疑問。
4多かり 形容詞「おほし」終止形
形容詞の終止形は本来「し」でおわるが、これだけは例外。
1こころうや 形容詞「こころうし」語幹+終助詞「や」
形容詞の語幹は感動表現にもちいられる。
形容詞はしばしば補助的動詞とともにもちいられる。
うつくし うつくしく あり
うつくしき うつくしく ある
うつくしけれ うつくしく あれ
補助的動詞は「あり」が基本であるが、「あり」があらわれることはあまりなくて、尊敬の「おはす」や丁寧の「侍り」があらわれることがおおい。
また、「あり」のかわりに「ものす」をもちいて、「ものし たまふ」のように、尊敬の補助動詞をつけることもある。これらは、形容詞が述語にくると、敬語表現がしにくいので、それをおぎなうためである。
1おもしろくあり 形容詞「おもしろし」連用形+補助動詞「あり」
2わかくおはします「わかし」連用形+補助動詞・尊敬「おはします」
3をさなくはべり「をさなし」連用形+補助動詞・丁寧「はべり」
4うつくしうてものしたまふ「うつくし」連用形ウ音便+補助動詞「ものす」連用形+尊敬「たまふ」
1かたくはべらめ 「かたし」連用形+補助動詞・丁寧「はべり」未然形+推量「む」已然形 強調。