「−ば」の形でおわっている文は、「理由」をあらわしながら、つぎの文につながっていくことができる。このとき、「−ば」の形の文を従属文、あとの文を主文という。
「ば」は已然形に接続しているとき、順接確定条件をあらわす接続助詞であるといわれる。
よめば、 よみしかば、 よみければ、
よまねば、 よみざりしかば、よみざりければ、
よみつれば、よみぬれば、 よみたれば、よめれば、
よまるれば、 よますれば、 など。
1のたまへば 尊敬の動詞「のたまふ」已然形+「ば」。
2みしかば 動詞「見る」連用形+過去「き」已然形+「ば」。
3めしければ 動詞「めす」連用形+過去「けり」已然形+「ば」。
4いりぬれば 動詞「いる」連用形+完了「ぬ」已然形+「ば」。
1わたりたまひぬれば 動詞「わたる」連用形+尊敬「たまふ」連用形+完了「ぬ」已然形+「ば」。
順接確定条件の「−ば」の形の述語は、「理由」のほかに、先にあった出来事がきっかけとなって、あとの出来事がおきたということをあらわすときがある。このとき、「・・と」と訳す。また、過去の出来事のばあいは、「・・たところ」と訳す。
「−ば」の形は、動詞以外にも、形容詞、形容動詞、述語としてつかわれている名詞にもみられる。
白し。 白ければ、
豊かなり。 豊かなれば、
山なり。 山なれば、
「山なれば」の「なれ」は断定の助動詞の已然形。
1ひきよせたまへば 動詞「ひきよす」連用形+尊敬「たまふ」已然形+「ば」。きっかけ。
2おもへば 動詞「おもふ」已然形+「ば」。きっかけ。
3いやしければ 形容詞「いやし」已然形+「ば」。理由。
4おもげなれば 形容動詞「おもげなり」已然形+「ば」。理由。
1ことなれば 名詞「こと」+断定「なり」已然形+「ば」。理由。
さらに、完了や打消の形で、条件の形になっている例をあげよう。
1ききつれば 動詞「きく」連用形+完了「つ」已然形+「ば」。きっかけ。
2 いりぬれば 動詞「いる」連用形+完了「ぬ」已然形+「ば」。理由。
3ゆきたまひたれば 動詞「ゆく」連用形+尊敬「たまふ」 連用形+完了「たり」已然形+「ば」。きっかけ。
4えりあはせられたりしかば 動詞「えりあはす」未然形+尊敬「らる」連用形+完了「たり」連用形+過去「き」已然形+「ば」。
4例は理由。
1あるべきならねば 動詞「あり」連体形+当然「べし」連体形+断定「なり」未然形+打消「ず」已然形+「ば」。
「べきなり」の言い方については、あとでふれる。
2みえざりければ 動詞「みゆ」未然形+打消「ず」連用形+過去「けり」已然形+「ば」。
1,2例はいずれも理由。
ここでも従属文の述語が「−ば」の形をとっているが、この「ば」は未然形に接続している。
この形は順接仮定条件をあらわしているといわれ、仮定の条件をさしだし、その条件のもとで主文の出来事がなりたつだろうとのべている。
したがって、主文のかたちは、推量、疑問、または命令である。上の例も、主文の述語の形は、推量でかつ疑問であるが、たずねる意味はあまりつよくなく、心のなかで想像しているのである。
1あらば 動詞「あり」未然形+「ば」。
2いはば 動詞「いふ」未然形+「ば」。
3なくば 形容詞「なし」未然形+「ば」。
4ものならば 名詞「もの」+断定「なり」未然形+「ば」。
1命だにあらば。 「あらば」の説明はまえとおなじだが、主文が省略されている。いわなくてもわかるばあい、このように省略されることがある。
順接仮定の形は、確定とことなって、過去の助動詞とはくみあわさらない。
よめば、よみしかば、よみければ、よみつれば、よみぬれば、よみたれば、よめれば、・・(確定)
よまば、 ・・、 ・・、 よみてば、 よみなば、 よみたらば、よめらば、・・(仮定)
過去の助動詞「き」または反事仮想の助動詞「まし」とくみあわさると、事実に反する仮定をあらわす。
よみせば、よみましかば、
1みなりせば 名詞「み」+断定「なり」連用形+過去「き」未然形+「ば」。
2所ならましかば 名詞「所」+断定「なり」未然形+「まし」未然形+「ば」。
3せましかば 動詞「す」未然形+「まし」未然形+「ば」。
4みざらましかば 動詞「みる」未然形+「まし」未然形+「ば」。
いずれも事実に反することを仮定している反実仮想。