実践編E,F,G解説

E-1

E 省略1

 文の一部が省略されているものがかなり、出題の対象になっている。もちろん、解釈にあたっては、省略の部分を補わなければならない。

 いちばんよくみられる例は、「あり」の省略である。いままでもときどき、述語が二つの部分に分裂して、補助動詞「あり」がつかわれているときがあったが、このような言い方が多くつかわれているうちに、いちいち「あり」をいわなくなったのである。ここであげた例も、

 なるまじきにや あらむ。 なくや あらむ
 つもりにや あらむ。  おはしけるにや あらむ

のあとの部分が省略されているのである。

1なるまじきにや 「なる」終止形+打消推量「まじ」連体形+断定「なり」連用形+係助詞「や」

2なくや 形容詞「なし」連用形+「や」

3つもりにや 名詞「つもり」+断定「なり」連用形+「や」

4おはしけるにや 尊敬動詞「おはす」連用形+過去「けり」連体形+断定「なり」連体形+「や」

E-2

E 省略2

 ここのはじめの例も、
  さぶらふまじくや あらむ の省略。

 あとはいろいろな省略の例である。
 つぎの2例は疑問にかかわって、訳文の( )のなかのような言葉が省略されている。

 最後の例からは、中止形や条件形の後、主文が省略されている例をあげる。まず、中止形の後、訳文の( )のなかのような言葉が省略されている例。

1さぶらふまじくや 謙譲動詞「さぶらふ」終止形+打消推量「まじ」連用形+「や」

2いかでかと 疑問詞「いかで」+疑問係助詞「か」+引用格助詞「と」

3ためにか 名詞「ため」+格助詞「に」+疑問係助詞「か」

4ききてこそ 動詞「きく」連用形+接続助詞「て」+係助詞「こそ」

E-3

E 省略3

 つづいて、中止法、仮定条件、接続助詞「」のあと、主文が省略されている例をあげる。

  まゐらせてこそ、・・せむ
  平らかに おはしましなば、よからむ
  なまめかしきに、・・・なり
  あたらしきに、・・

 省略されている部分を補うのは、前後の文脈から判断するしかない。内容の把握と、古文常識が要求されるので、べつのところでのべた「古文多読法」よらなければならない。

1まゐらせてこそ 謙譲「まゐらす」連用形+「て」+「こそ」

2おはしましなば 尊敬「おはします」+強意「ぬ」未然形+「ば」

3なまめかしきに 形容詞「なまめかし」連体形+接続助詞「に」

4あたらしきに 形容詞「あたらし」連体形+接続助詞「に」

F

F 準体法

 準体法については文型12であつかった。準体法の連体形は名詞として機能する。格助詞がついたり、断定「なり」をともなって述語となったりするのはもちろん、はだかのままで名詞として主語になる。はじめの例がそうである。

 また、文の最後を準体法の連体形でむすぶことによって、いろいろなニュアンスをあらわす。これは現代語で、「・・のだ」「・・のか」のような文の終わり方があって、いろいろな意味をあらわすのとにている。

1なやます 動詞「なやます」連体形。主語。ここで文がおわっていないので、終止形ではなく、連体形と判断される。

2かよはすべきなり 「かよはす」終止形+当然「べし」連体形+「なり」

3あるべきにあらず 「あり」+「べし」連体形+断定「なり」連用形+補助動詞「あり」+打消「ず」

4きけるなり 「きく」已然形+完了「り」連体形+断定「なり」

F(2)

1ないたまふなりけり 「なす」+「たまふ」連体形+なり+けり  

 「ない」は動詞「なす」の連用形「なし」のイ音便の形。

G-1

G その他のかたち1

 実戦編のさいごには、いままでのパターンにあてはまらない、いろいろなかたちをとりあげる。

 はじめの例は、述語が分裂する場合。「ひとなるらむ」という一文節の述語が「ひとに あるらむ」となり、あいだに疑問「や」がはいる。さらに「あり」が敬語の「ものしたまふ」に置き換えられている。

 つぎの2例は「・・がてら」「・・ものから」のかたちをつかった例。
 最後は、「・・には しかじ」(・・がいちばんだ)の倒置である。

1ひとにやものしたまふらむ ひと+断定「なり」連用形+や+補助動詞「ものす」+尊敬「たまふ」終止形+現在推量「らむ」連体形。

2のべがてら 動詞「のぶ」+接続助詞「がてら」

3おもひはてぬものから おもひはつ+打消「ず」連体形+接続助詞「ものから」

4なからむには 形容詞「なし」未然形+推量「む」連体形+格助詞「に」+係助詞「は」

G-2

G その他のかたち2

 はじめの例は、終助詞「」でおわっているが、疑問文ではない。感嘆文である。疑問文なら、「はべりや」であろう。準体法の連体形「はべる」で文がおわっているのは、やはり感動の表現である。

 つぎの例は、「ない」という意味をもつ「なくに」が詠嘆の表現にもちいられているので、打消には訳さない。

 さいごの例は、形式名詞を文の最後にもってきた例。形式名詞のかわりに準体法をもちいれば、「あるまじかりけるなり」となる。

1おもひやられはべるや 「おもひやる」未然形+自発「る」連用形+丁寧補助動詞「はべり」連体形+詠嘆の間投助詞「や」。

2おもはなくに 「おもふ」未然形+詠嘆の連語「なくに」。

3あるまじかりける 「あり」連体形+打消当然「まじ」連用形+過去「けり」連体形。


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