平家物語:作者未詳。多くの人の手をへて、鎌倉時代中期に現在の形となった。平家一門の栄華と滅亡を語り、滅び行くものの哀れさと、新興武士層の力強さを描く。文体は和漢混交文で、琵琶法師による「平曲」として語り広められた。
祇園精舎はその巻第一。
平清盛:(1118〜1181) 全体の序として、前代未聞の人であったと語り、日本や中国の反逆者と比較している。歴史的にも、武士の棟梁の家から身を起こし、貴族の最高位を極め、中国との貿易を進めるなど、大政治家であったが、死後、貴族と武士の双方から攻撃され、急速に一族は滅亡した。
秦の趙高:(〜BC207)始皇帝の死後、権勢を極め、秦の滅亡の原因を作った人物。
漢の王莽:(BC45〜23)前漢を乗っ取り、新という国を建てたが、すぐ後漢となった。
梁の朱い:(483〜549)梁で権勢を誇り、のち自殺に追い込まれた。
唐の禄山:(〜757)唐の玄宗皇帝に愛され、のち反乱を起こした。
承平の将門:平将門(〜940)。承平5年に関東に乱を起こし、新皇と称したが討伐された。
天慶の純友:藤原純友(〜941)。天慶2年に将門に呼応する形で瀬戸内海で反乱を起こした。
康和の義親:源義親(〜1108)。康和年間に九州・四国で反乱を起こした。
平治の信頼:藤原信頼(1133〜1159)。平治元年、源義朝とともに清盛と戦って破れた。
1祇園精舎:釈迦が説法したインドの寺。釈迦が教えたのは諸行無常で、万物はおなじ状態でありつづけるものは無いということ。
娑羅双樹:釈迦入滅の時に色が変わったという木で、その釈迦すらこの世を去っていったということ。
4塵:吹き飛ばされてしまうもののたとえ。
1とぶらへば:「おごれる人も久しからず、たけき者もつひには滅びぬ」という例を外国(中国)の朝廷で跡づけてみると。
4知らざつしかば:「知らざつしかば」の促音便。語り物であるため、このような歌い振りが書きとどめられているのだろう。
1者ども:名詞「者」+複数の接尾辞「ども」
近く本朝をうかがふに:おなじことを日本の朝廷で跡づけてみると。
4ま近く:接頭辞「ま」+形容詞「近し」連用形
六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公:「平」が氏、「清盛」が実名、最高位としては太政大臣になったが、辞任しているので「前太政大臣」、その後仏道に入ったので「入道」、屋敷が六波羅にあったので、「六波羅の入道」が通称。「公」は尊敬の接尾辞。身分のある人の実名「清盛」を使うことは、生前はもちろん、死後もしない。
1心も言葉も及ばれね:平朝臣清盛の行動が、古今、国の内外を含めて、比較に絶するものであったこと。
古い制度を破壊した大政治家という点では、源頼朝がいるが、頼朝の創始した武家政権は、その後も受け継がれ、その始祖として尊敬された。清盛は、古代を否定しながらも(その点で他の反逆者とおなじ)、その政権は受け継がれなかったため、理解しがたい人物としてのみ記憶されたのではないだろうか。