第43段。歌などに取り上げられる趣ある虫を列挙し、コメントした、類集的章段。
1鈴虫:いまのまつむし。歌で、「(鈴を)振る」、「振り捨つ」のような表現と関係づけて使われることが多かった。
松虫:いまのすずむし。歌で「待つ」と掛詞にして使われることが多かった。
きりぎりす:いまのこおろぎ。
はたおり:いまのきりぎりす。
2われから:海草についている小虫で、「我から」と掛詞にして使われることが多かった。
ひをむし:いまのかけろう。はかないものの例えとして用いられた。
3鬼の生みたりければ:鬼は簑を着ているとされるので、みのむしはその子供だということになったらしい。ここの「親」を父親と解釈する説と、「母親」と解釈する説がある。
親:ここでは父親ととった。
4親:したがってこの親は母親ということになる。
1あやしき衣:粗末な衣類。みのむしの簑のこと。
いま:すぐに。「来むとする」にかかる。
吹かむ折:推量「む」連体形。連体形ではしばしば仮定の用法として、予想される未来のことをあらわす。将来秋風が吹くであろうから、その時。
2来むとする:「む・・とす」で「・・しようとする」。「む・・とす」はさらに一語となって、助動詞「むず」になる。
逃げて去にけるも:母親が。
3聞き知りて:みのむしの子は。
八月ばかりに:八月は旧暦では秋。
ちちよ、ちちよ:みのむしの鳴き声。「ちち」は1)「母」、2)「乳」、3)「父」という解釈がある。多くの本は3)で解釈している。
4鳴く:動詞「なく」連体形。準体法としてもちいられ、名詞としてはたらいている。
1ぬかづき虫:いまのこめつきむし。頭を床にこつこつしながら歩き回る。
2つきありくらむよ:額をつくのは、仏を尊崇するしぐさだから、仏様を拝んでいるのだろう、ということ。現在推量「らむ」は、今見ているわけではないので、ここでは伝聞・婉曲。「そのように言われていますね」という気持ち。
3ほとめきありきたるこそ:完了「たり」は、ここでは動作が続いているのだから、存続とした。
前半のグループは名前を挙げただけだが、説明を要しない、和歌を詠む人なら常識になっている虫。
後半のみのむしと、ぬかづき虫は、歌には詠まれないが、コメントした理由によって、をかしきものに入れることができる。