枕草子144・解説

作品について

 枕草子

 その一四四段。かわいらしいものを列挙している、類集的章段。

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うつくしきものかわいいもの。現代語の美しいではないことに注意。

 瓜にかきたる:まくわうりのようなものに墨で描いた。

 ねず鳴きするに:こちらでネズミのような声で鳴くと。スズメの鳴き声をまねたもの。

をどりくる:鳥類独特のホッピングをして来ること。

 二つ三つばかりなる2,3歳位である

:紙や切れの切れ端のようなものであろう。

見せたる:完了「たり」連体形が準体法で使われている。ここでは、「姿」などを補って訳す。

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尼そぎ:当時の尼の髪型で、髪を肩のあたりで切りそろえたもの。剃刀でそいだもので、幼児もこの髪型であった。

 おほへるを:完了「り」の連体形。「おおう」という動作の結果として髪が目にかぶさっているということ。存続とみなくてよいと思う。

かきはやらで:「かきやる」という複合動詞に係助詞「は」がつくとき、間にはいりこんでくる。「で」は打消の意味をもつ接続助詞。

 うちかたぶきてちょっと首をかしげて

 見たるも:完了「たり」の連体形。ここは動作の継続をあらわしているから存続の用法。

殿上童:公卿の子で、元服前に昇殿を許されたもの。ちょっとした雑役をしたが、宮中のマスコットのようなものだったらしい。親が昇殿する幼い子を着飾らせた、その子がまだ幼くて、宮中をあちこち歩き回る様子がかわいらしいと言っている。

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あからさまに:本格的に子守をしようというのではなく、ほんのちょっとのつもりで。友人や親類が連れてきた幼児とちょっとのつもりで遊んでいる感じ。こんなところから、清少納言は自分の子供を持たなかったのではないかと想像する人がいる。

:今のひな人形と起源をおなじくするが、もともと汚れを払うためにつくった人形(ひとがた)が玩具になったもの。源氏物語にも、若紫がドールハウスを造ってもらって、人形遊びをする場面がある。人形にあわせて、小さな調度や食器を作ったのであろう。

 :蓮の葉は大きいが、その小さなもの。はちす(蜂巣)からきた言葉。レンコンの断片の形をいう。

の葉。「あふひ」を「あおい」と「」を「」で読む例はあまりない。今のふたばあおいのことで、賀茂の祭りに飾りとして使う。

 なにもなにも・・:一般化して言っている。随筆の文章になっている。

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肥えたる:庶民が飢えて痩せていた時代、飽食して太っているのは貴族にとって美しいことだった。もちろん、ここでは幼児のふっくりした感じを言っている。

 二藍:青みがかった紫色。肌の白さと対照的である。

二藍(ふたあい)  

 薄物:夏用の薄い絹織物。

衣ながにて:当時はおむつなどせず、産着の裾を長くしておいて、代用にしたのではないか。赤子を抱いて、おしっこに濡らされてしまう話がよく出てくる。

 :和服の袖がじゃまになるので、大人でも立ち働くとき、たすきを掛けるが、ここでは着物が這い歩きのじゃまにならないようにたすきをかけている。

短きが丈の短いもので。格助詞「が」は同格で、丈の短い着物袖ばかりのようである着物が同じものであることを表す。

:漢文の本を読む。当時の貴族の息子は、このくらいの年齢から学問(漢文の本の読み方を習うこと)を始める。先生の読んだ通りを、意味もわからずに大声で読む、という教育法だった。

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足高に:羽がまだ短いので、足が長く見えることを言っている。

 白う:羽根の色を言っている。

人のしりさきにたちて:これはすり込みによって、人を親と思っているのであろう。

立ちて走るも:親鳥の後をひな鳥たちがくっついて歩いている様子。「立ちて」はあまり意味がない。

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雁のこ:食用にするがんや鴨の卵。

 瑠璃:ガラス。輸入品であろうが、小さな、いろいろな色のついた壺が仏に捧げるため使われていた。

  かわいいものとして、小さなものをとりあげている:

   ・・顔。

   雀の子・・。

   二つ・・いとうつくし。

   頭は・・うつくし。

   大きに・・うつくし。

   をかしげなる・・らうたし

   ・・調度。

   蓮・・。

   葵・・。

   (なにも・・うつくし。)

   いみじう・・また短き・・うつくし。

   八つ・・うつくし。

   鶏・・をかし

   また親の・・うつくし。

   ・・こ。

   ・・壺。

  このように整理してみると、類集的章段として、名詞を列挙しているが(・・顔。のように。また準体法をもちいた雀の子・・。もこれに準じる。)、文によって表している場合もおおい(二つ・・いとうつくし。のように)。また、らうたしをかしのようにうつくしに近い意味の形容詞を用いている場合もある。章段の途中にある (なにも・・うつくし。)は結論的な、一般化している文である。つまり、この章段は、名詞の羅列から、かなり随筆的に発展した文章であるといえる。