枕草子:995〜1004の成立。清少納言によって書かれた、日本ではじめての随筆。約300の短い文章からなり、比較的単純な、「山は」「虫は」で始まる類集的なもの、宮廷生活の出来事をつづった日記的なもの、そして一般化して自然や人事についてのべた随筆的なものからなる。
本文は第一段で、随筆的章段。一般的に、四季おりおりの美、興趣をまとめたもの。非常に有名な一段。
1春はあけぼの。:この文と、後にでてくる、「夏は夜。」「秋は夕暮れ。」「冬はつとめて。」について三つの解釈がある。
1)春はあけぼの(がよい)。「いと をかし」などが省略されたと見る。
2)春はあけぼの(にかぎる)。「美しいものは、春では、あけぼのだ。」という解釈で、「(食べたいものは)ぼくはウナギだ。」という文と同じ構文だと見る。
3)春はあけぼの。何も補わない。
あけぼの:暁(あかつき)よりあと、朝(あした)より前の、東の空がほのぼのと明るくなるころ。
やうやう:「やうやく」のウ音便。しだいに。だんだんと。「ようやく」ではない。
山ぎは:山に接する空の部分。後に出てくる「山の端」と対照される。
2紫だちたる:紫がかった。「たる」は完了・連体形で、色の変化が起こり、その結果がつづいている。「紫」は現在の「赤紫」に近い色。
紫
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たなびきたる:「たる」は存続と見た。雲が横に長く引いている状態がつづいている。
3やみもなほ:月の出ない闇夜はだめかと言うと、それでも・・という意味。蛍の飛ぶ闇夜と、雨の降る闇夜はそれでもよい。さらに、蛍は、たくさん飛ぶのもよいし、1,2匹飛ぶのもよい。
1をかし:「をかし」は枕草子によく使われる言葉で、枕草子を「をかしの文学」と呼ぶ人もいる。「をかし」はおもしろい、趣がある、という意味だが、枕草子では、すばらしい、という意味で使って、作者がすばらしいと感じたものをテーマ別に列挙しているのである。
近うなりたるに:夕日が山の端に近くなっている時に。
3飛び急ぐさへ:副助詞「さへ」は添加の意味。「までも」。雁のように文学的伝統から珍重される鳥はもちろんだが、ふつう嫌がられるカラスのようなものまでも、ということ。
4まいて:「まして」のイ音便。
連ねたる:渡りの時期には、ななめ一列になったり、V字型になったりして飛ぶ。
1風の音、虫の音:風のような大きなものは「おと」、虫のような小さなものは「ね」と言ったようである。
では、質問:鐘、砧(きぬた)は?
楽器、人の泣き声は?
2言ふべきにあらず、言ふべきにもあらず:「言ふべし」に強調の気持ちで断定「なり」をつけると、「言ふべきなり」。打消にすると、「言ふべきならず」。これに係助詞「も」をつけたり、ちょっともったいぶって言うと、補助動詞「あり」があらわれて、断定「なり」は連用形「に」としてあらわれる。
3つとめて:意味は、1)早朝。2)翌朝。ここでは1)。
4白きも:霜が降りてあたり一面白いときも。
さらでも:副詞「さ」(そのよう)+補助動詞「あり」から、「さり」(そのようである)ができる。これにいろいろなものが突くが、ここでは、打消の接続助詞「で」がついて、「さらで」(そのようでなくて)。さらに係助詞「も」がついたもの。
1炭もて渡るも:炭火を持って、あちこちの部屋へとまわってあるくのも。
つきづきし:似つかわしい。反対語は「つきなし」。
2ぬるく:早朝の寒気がゆるんで。
ゆるびもていけば:だんだんやわらいでいくと。
火桶:木製の火鉢(火鉢といっても、今はわからなくなっているが)。「炭櫃(すびつ)=いろり」と比較せよ。
3わろし:よくない。評価の系列は、「よしーよろし(悪くない)ーわろし(よくない)ーあし」であったことに注意。