兼好法師の随筆「徒然草」の第九二段。
1諸矢をたばさみて:二本ずつ矢を射るのが当時の弓の競技の仕方であったらしい(大鏡)。ところが、この先生はそうしてはいけないと言う。
2いはく:動詞「いふ」の未然形に接尾辞「く」がついて、「言うこと」という意味になる。引用の決まった形で、ク語法と呼ばれる。
3なほざりの心あり:1本目が失敗しても、2本目があるからといいかげんに練習するから、上達しない、ということ。
4得失なく:1本目が失敗しても、2本目を当てればいいというような考えをせずに、ということ。
1定むべし:推量「べし」はこの場合は意志の用法。
わづかに二つの矢:何百本も練習しろというなら、いいかげんにもなろうが…という気持ち。
2思はむや:「む」は推量の助動詞。「や」は疑問の終助詞で、あたりまえのことを尋ねているから、反語の意味になる。「思うはずがない」と反対のことを強く言う。
4この戒め:初心者の怠けの心は、当人に意識されなくても、生まれてくる、という教訓。これは、弓道以外にもあてはまると言っている。
1道:ここでは仏道。仏教の道。
翌朝があるから:「今十分にやらなくても」を補う。
と考え:「その時にやればよい」を補う。
2夜があるから:「今十分にやらなくても」を補う。
と考えて:「その時にやればよい」を補う。
重ねて:あとになって、の意味。
3いはんや:このように朝夕の修行という日常的な場面でも、なまけ心が生じるのだから、まして一瞬を問題にすれば…ということ。
4一念:「一刹那」と同じ。
1難き:「何ぞ」の係り「ぞ」を受けて、形容詞「かたし」の連体形で結ぶ、強調の形。
何百本もの矢を射るのなら、自他ともに怠けの心が生じるのに気づくが、たった二本の矢を射るときにも、油断が生じるということは、初心者にはとうていわからない。同じように、朝夕の念仏の修行では、自他ともに怠けの心が生じるのに気づくだろうが、一瞬の間にも油断が生じるということをこのことから類推して、心すべきである。