八つに・解説

作品について

 兼好法師の随筆「徒然草」の第243段。

 

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八つになりし年:私が8歳のとき。

 :卜部兼顕(うらべのかねあき)。治部少輔として朝廷に仕えた。

 いはく:動詞「言ふ」に接尾辞「く」がついて名詞化したもの。言うことには。あとに、引用句を受ける。

 ものにか候ふらむ:名詞「もの」を述語にするため、断定「なり」を付ける、「ものなり」。

  丁寧語にするため、丁寧の補助動詞「候ふ」を付ける、このため「なり」は連用形の「」で現れる、「もの 候ふ」。

  仏は過去のものではないから、現在推量「らむ」を付け、疑問文にするため、係り「か」を挿入して連体形で結ぶ、「もの 候ふらむ」。

さぶらう(ろう):「ふ」は「う」と読まれるから、「さぶらう」だが、「らう」はまた「ろう」と読まれるから、「さぶろう」と読んでもよい。

 人の成りたるなり:無限に近い生まれ変わりを通して、膨大な功徳を積んだ人間(たとえばシャカ・ムニ)が仏陀になる。

 成りたるなり:この断定「なり」は説明する言い方であろう。なったのだ

成り候ふやらむ:「なり さぶらふにや あらむ」の略した言い方。

仏の教へによりて成るなり:シャカ・ムニ(お釈迦様)は彼以前の仏陀の残した教えによって自らの悟りを開いた。このように、仏教ではこの宇宙に無数の仏陀が存在するというが、仏陀に出会える人間は、地球外生物に遭遇する人間とほとんど同じくらい稀少である。

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その教へ始め候ひける第一の仏は:宇宙に無数の仏が存在するとして、理屈のうえでは、だれかが最初に仏陀になったはずである。シャカ・ムニは、銀河系宇宙がありふれているのと同じくらい、ありふれた仏陀なのだから。

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と言ひて、笑ふ:答えられなくなってしまったのである。大人はこのように、もっとも根元的な問を忘れてしまう。

諸人に:家に来る客や知人に。

語りて興じき:子供らしい問だと可愛らしく思うとともに、利発な息子を自慢に思っている様子。