方丈記は、序文で人と世のはかなさを述べ、その実例として、自分が経験した都での災厄を五つ述べる。その第一の部分で、「安元の大火」を扱ったもの。
1われ・・なりぬ。:五つの災厄を述べるにあたって、前書きとなっている文。
ものの心を知れりしより:五つの災厄が起きた時からすると、筆者の10代後半から。
春秋:よみはしゆんじう(しゅんじゅう)でよいと思う。はるあきも可能。
3去にし安元三年四月二十八日かとよ。:あれは、去る安元三年四月二十八日のことかと。「思ふ」などが省略。ここから、第一の災厄。
去にし:連体詞。
安元三年:1177年。筆者は22歳ころ。
二十八日:にじふはちにちでよいと思う。
4静かならざりし夜:ざわざわと静かでなかった夜。
戌の時:午後8時。
東南(たつみ):東南。
去にし 二十八日
1西北(いぬゐ):西北。
朱雀門:すざくもんとも。大内裏の正門。
大極殿:だいごくでんとも。大内裏にあった正殿。この火事の後、再建されなかった。
大学寮:貴族の子弟が学んだ役所で、朱雀門の外にあった。
民部省:戸籍・徴税・厚生を扱った役所で、朱雀門の内にあった。
3樋口富小路:樋口小路と富小路が交差する辺り。庶民の家が多かったらしい。
とかや:ということである。
舞人:あちこち泊まり歩いて、舞を見せる人達であったのではないか。
出で来たりけるとなん。:「言ふ」などが省略。出火したのだという。
4風に:風によって。
広げたる:広げるという動作が完了し、その結果を問題にしている。完了「たり」の完了の用法と見たが、存続と見る人もいる。
末広になりぬ:出火元は一点だが、南東から北西に向けて、風下の方角に燃え広がったということ。
1遠き家:火に遠い家。
近きあたり:火に近いあたり。
ひたすら炎を:風がひたすら炎を・・。
2火の光に映じて:灰が火の光に映って。
3風に堪へず:風の力に堪えきれず。
4一、二町:一町は約120メートル。
移りゆく:飛び火して移ってゆく。
あらむや:反語。
1あるいは:これを連語とする人もいる。
4いくそばくぞ:終助詞「ぞ」はふつうは念押しだが、ここでは疑問の表現「いくそばく」を伴って疑問の強調。
1公卿:朝廷に使える高官。
数へ知るに及ばず:どのぐらい焼けたのか数え切れない。
2及べりとぞ:「言ふ」などが省略。
3馬牛:貴族が乗用に飼っていたもの。避難させることができず、繋がれたり、小屋の中に閉じこめられたままで死んだのである。
辺際を知らず:「辺際」は果て。無限である。
4みな愚かなる:すべてが変化し、消滅するという仏教の教えからは、人間の政治・経済・文化活動はすべて愚かなものだということになる(仏教はだから価値がないというのではなく、そうしたものに執着して、精神の自由を失うことが愚かだと教えるのであるが)。
1作るとて:「とて」をひとつの格助詞になっていると見たが、格助詞「と」+接続助詞「て」と見る人もいる。
心を悩ます:神経をすり減らして苦労する。
2あぢきなくぞ侍る:丁寧の補助動詞「侍り」を使って、読み手に敬意を示している。
具体的な数字を列挙することによって、大火のすさまじさを効果的に表現し、説得力のある文章で、危険な都の中に、財産を使い、心を悩まして家を造ることの無益さを述べている。