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部屋のいたるところには書籍が積み重なれており
常人では解することが不可能な文字にて描かれた魔法陣が存在していた。
部屋は四面すべてが石で出来ており、温かみとは無縁な世界が広がっている。
床に、壁に、天井に。
いたるところに魔法陣はそこにいる。
部屋を照らしているのは四隅に一本ずつ置かれた蝋燭のみ。
薄暗い灯りの中には、浮かぶ人の形をした大きな影がひとつ。
大きな影は部屋の中央に立ち、左手に本を持ちじっと眺めている。
男は一つの願いを思い、実行しようとしていた。

未来を見る力。

先人の誰もがそれを試み、すべてにおいて失敗していた。
そのことはかき集めたどの文献にも書かれている。
戒めとも呼べるその言葉たちは、男の思考と行動をいまままで拘束していた。
すべての物事には、超えてはならぬ一線が存在する。
その一線を越えるためには自らの心を強く押す何かが必要となる。
男は自分に何度も言い聞かせている。
それを毎日のように繰り返してきた。
今日こそはと心に誓い、部屋へと入り、一日何もせずすごす日々。
どれだけ繰り返してきたのか、わからない。
だがやらねばならない。
自分の手を見ると、汗で濡れていた。
服でそれを拭い、目を閉じ両手を掲げた。

男は叫んだ。

その刹那、辺りは白に染まり全てが飲み込まれた。
どれだけの時が経ったかは分からない。
辺りに静寂が訪た時、部屋には誰もいなくなっていた。