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少しひやりとしたが、相手の表情に変化は見られないのでそのまま話を続ける。
「それはまた…。物騒なお話ですね。」
当たり障りのない答えを返し、相手の出方を見る。
「なに…。十分な報酬と安全は用意しよう。」
男は口元に笑みを浮かべ、金貨の詰まった袋をヒューズに向かって投げた。
受け取ったときの重さから、これだけあれば一年は何もしないでも食べていけるだろう。

「これはすごい額ですね…。」
金額が多ければ多いほど、依頼内容を疑わなければならない。
臆病なほど、生き残れることも経験から知っている。
たった一人の娘を殺すのに出す金額にしては、多すぎる。
「簡単な仕事だろう。お前らにはそう簡単に手が出ない金を出すといってるんだ。」
男の目に、怪しい光が宿ったのを見た。

これは…そう。
何かに憑り憑かれている者の目だ。
「残念ですが…。お断りさせていただきます。」
即座に判断を下した。

こういうのにはいくら金をつかまされても割が合わないことに巻き込まれるのは分かる過ぎている。
「なに…? 断るというのか。」
目には憎悪と憎しみがさらに宿った。
だが意外なことにすぐにそれを収め、男は席を立った。
「…わかった、貴様には頼まん。お帰り願おうか。」
男は立ち上がり、ヒューズに背を向けたまま何も言わなくなった。
しばらくその背を眺めていたが、ヒューズも立ち上がり黙って礼を返し、退出した。
扉を閉め、館の玄関へと歩き出す。

ふと窓の外を見ると、今にも雨が降り出しそうだった。