本名  三田佳奈美(みた・かなみ)
所属 三鷹研究所江坂分室や。 
家族構成  ちうか、ウチアンドロイドやもん。家族なんておれへん。
好きなもの せやな、ニンゲンをからかうことやな。
嫌いなもの うーん、思いつかへんな。気にくわんちうのなら、自分より性能のええアンドロイド、やな。そんなん会うたことあれへんけど。 
彼氏イナイ歴(笑) ウチにはそんなん不要や。
流派  テコンドー。しっとる?足技ようけ使う格闘技や。 
 
 
 
 

最新型アンドロイド。性能的には奈美を上回るはずである。性格は自己中心的。手技主体の古流武術を学んだ奈美とは対照的に、足技主体の格闘スタイルを持つ。
 
 
ソニックブレード 高速な蹴りから発生する真空の刃を武器にする飛び道具。とはいっても、飛距離はないに等しい。出は早いので、相手の飛び道具の相殺に使用する。 
クレセントキック 前転から足を叩きつける(・・・この名前知ってる人・・・いないよな)突進技。半月斬のようなアクション。 
ミラージュキック 無数の蹴りを繰り出す。百烈蹴。 
ジャハザン 空中から急降下する飛び蹴り。奈美のものと性能的には同じ。 
紅蓮鳳凰脚 乱舞技。連続技ではなく投げ判定の技のため、最初の一発が命中すればとちゅうで取りこぼすことはない。ガードは可能。 
EXレーザー(いーえっくすれーざー) 奈美のものとは異なり、巨大な光弾を放つ。 
 
 
 
 


 

私立桑園高校。
その進学率の高さでは都内でも名の知れた高校である。

その1年B組に三鷹奈美は在籍していた。

三鷹奈美・・・三鷹研究所が持てる技術のすべてを駆使して作られた、世界で数体とない、超精密アンドロイド。
頭部のアンテナ(外部ネットワークとのアクセス以外にも、放熱フィンやバランサーとしての役目も果たす)を除けば、ほとんど人間と変わるところのない存在。

高度な処理能力を持っており、本来ならば進学させる理由はないはずの彼女=コンピュータ=機械を、あえて私立の高校に進学させたのは、彼女が居候をしている鷹森一刀流道場の人間である。

「あの子にはね、いろんな人間と知り合ってたくさんの経験を積んでほしいのさ」

古くから彼女を見ている石動綾子はそういい、彼女に編入試験を受けさせたのである。

その綾子の期待通り、奈美は人間の知人を大勢作り、楽しい学園生活を送っているかのように見えた。

だが。

奈美はやはり機械。人間とは異なる存在である。学校という社会の中で、「他人とは違う自分」をいやでも意識せざるを得ない状況に置かれ、奈美は少しずつ物思いにふける時間が長くなっていた。それを綾子はよく知っていた。

こんなとき、あいつがいれば。

綾子は歯がゆい思いでそう考えたことがある。

流星出海。

数年前に、「自分の本当の居場所を探したい」と、長い旅に出た、もう一人の超高性能アンドロイドである。彼女との連絡が途絶えて、数年が経つ。
彼女がいれば、奈美の大きな支えになってくれるだろうに。

しかし、現実、奈美は一人っきりで、これからのことすなわち「人間ではなく人間に限りなく近いアンドロイドとして生きていくこと」を直視しなくてはならない。
「人間」が口出しできる問題ではないのだ・・・。

そして今日も、表向きは何も変わらない学園生活が始まろうとしていた。

裕子「ねえ、奈美ちゃん」

クラスメートの一人が、奈美に話し掛ける。

奈美「・・・なんですか?」

裕子「最近、元気ないね。具合悪いの?」

奈美「あの、えっと、具合悪く・・・ないです」

裕子「ならいいんだけど・・・あのね」

奈美「・・・?」

裕子「昨日の午後ね、奈美ちゃん・・・中町にいなかった?」

奈美「あや?昨日はお料理クラブなので、ずっと家庭科室にいたのです」

裕子「本当?あ、疑う訳じゃないんだけれど」

百合絵「あ、ほんとよ。だってあたし、奈美ちゃんがグラタン作るの見てたもん」

裕子「ならいいんだけど・・・よく似た人を見たものだから・・・」

百合絵「・・・それってなんかマズいわけ?」

裕子「それがね・・・」

声「おい、奈美!!」

突然3人の背後から、クラスメートの男子が声をかける。

奈美「あや?」

能久「『あや?』じゃねえぞ」

奈美「?」

能久「おめー、ウチの義幸の菓子取り上げたろ、昨日」

裕子「義幸って・・・あんたの弟の?」

奈美「???」

百合絵「そんなの無理よ、だってこの子昨日クラブだったんだから」

能久「『頭の横に飛行機みたいな羽をつけた女』なんて他にいるかよ」

裕子「あんたの弟がそういったの?」

能久「ああ」

奈美「???」

百合絵「・・・大体高校生が小学生のお菓子をなんで取り上げるわけ?ばっかみたい」

裕子「それって・・・中町とかそのへんで・・・?」

能久「いや、南町アーケードだって・・・ってお前も見たのか?」

裕子「いやあたしは中町の公園だった・・・けど・・・」

能久「けど・・・?」

裕子「ちょっと信じられなくて」

百合絵「どういうこと?」

裕子「喧嘩してたのよ・・・広高の男子3人を相手に。でね、3人とも倒しちゃったのよね。嘘みたいなハナシなんだけどさ」

能久「け・・・喧嘩あ!?奈美が!?そりゃあ・・・おかしくねえか!?菓子を巻き上げるんならともかく、こいつが喧嘩!?」

奈美「あのう・・・お菓子を巻き上げるんなら納得できるんですか・・・?('';」

裕子「だからさ、あたしも信じられなくて。でも頭に羽飾りがついてたし」

百合絵「ちょっと、あたしが嘘ついてるっての?同じクラブの人間が『いた』って証言してるのにどういうことよ!?」

奈美「あややあ・・・」

裕子「だからあたしも自分の見たのが本当なのかわかんなくなってさ」

声「くすくすっ」

能久「・・・?」

奈美「・・・?」

声「ようやっと会えたで、おねえちゃん」

その声の方に一同が目を向けると、そこにはいつのまにか小柄な少女が立っていた。

切り揃えられてはいない、しかしつややかな前髪。
一同の誰よりも小さい、小柄な体。
やや褐色の肌。
そして、頭の両側にある特徴的なアンテナ。
それは・・・

裕子「あっ、あの子だわ!!」

能久「・・・な・・・奈美・・・!?」

やや小柄ではあるものの、顔つきなどは奈美にそっくりなその少女に、驚愕の色を隠せぬまま、能久がつぶやく。

いや、正確にはうりふたつ、ではない。若干目つきが奈美よりも鋭く、それがやや気の強そうな印象を与えている。そして、奈美ならば絶対浮かべないような皮肉な笑みをたたえた口元が、外見的にはともかく、精神的にはその少女がまったく奈美とは別の人物であることを示していた。

少女「苦労したでエ・・・教授ったら、全然手がかりを教えてくれへんのやもん。昨日もな、そのへんの高校生におねえちゃんのコト聞こう思たら、あいつら、ウチのことナンパしようとしよってん。せやけど、ニンゲンってエライチャチい出来とんねんな。ちょっと力入れたら3人とも伸びてもうて。教授のデータだとそれくらいでヘタれるはずないんやけどなあ。ちょっと手応え無さすぎやナ」

裕子「・・・奈美ちゃん・・・『おねえちゃん』って言ってるけれど・・・」

奈美「しっ・・・知りません・・・」

少女「でもまあ、なんとか出会えたし。苦労は無駄やなかったってコトで」

百合絵「あ・・・あなた誰・・・!?」

少女「あ、自己紹介してへんかったネ。ウチは佳奈美。三田佳奈美。よろしうネ。型番で言えば、KTS−K73。だから正確には三鷹奈美・・・KTX−73の直接の妹やのうて、基本コンポーネントは共通やけれど、ランタイムがちょっと違うんや。もちろんリンクライブラリは上位互換や」

裕子「???」

佳奈美「あ、別に分かってもらおうとか思ってへんから。せやね、三鷹研究所江坂分室の出身、ゆえば、おねえちゃんには分かってもらえるやろか」

その言葉に奈美ははっとする。

能久「・・・なんか知ってるのか?」

奈美「・・・あまりよくは・・・でも、昔博士に、大阪にあるという研究所の分室の話は聞いたことがあります」

能久「とにかく、なんか事情はわからんが、こいつが俺の弟の菓子をとりあげたんだな!?おい、おまえ!」

佳奈美「か・な・みや、っていうたやろ?アンタ、昨日のおこちゃまの兄弟?カンニンな。お腹減ってもうたんで、つい、な。ゼニも持ってへんかったし」

その悪びれた気配すら見せないそぶりにかっとなったのか、能久が思わず佳奈美の胸ぐらをつかむ。
 
 

裕子「ち・・・ちょっとやめなさいよ能久!!大人げない!!」

奈美「止めてください、危ないです!」

奈美が警告を発する間もなく、佳奈美は能久の腕をとり軽々と持ち上げる。

能久「う、わああっ!?」

佳奈美「素人さんがウチにかかってきたってムダや、って」

奈美「能久さんを離しなさい!!」

いつになく激しい口調で奈美が叫ぶ。

佳奈美「いややなあ、これは『正当防衛』やで?それともウチらアンドロイドには自衛の権利すらあれへん、ちうこと?」

奈美「いったい、何の目的ですか!!」

佳奈美「困ったなあ、ホンマにウチが悪役みたいやん。しゃあないなあ」

そういって能久を離す。

その場に尻餅をつき、うめく能久。

佳奈美「ウチが大阪から出てきたんは、おねえちゃんが目的や」

奈美「・・・!?」

佳奈美「正確には、おねえちゃん・・・KTX−73三鷹奈美の蓄積したデータベースやな」

奈美「データ・・・ベース・・・?」

佳奈美「せや。おねえちゃんはもう10年以上ニンゲンと生活しとる。その過程で蓄積したデータベースをウチにコピーすんねや。したら、ウチはもっとパワーアップできんねんやんか」

裕子「コピー・・・って・・・」

佳奈美「うーん、そんじょそこらのコンピュータならケーブルでつないでバックアップでもええねんけどな、やっぱウチらみたいな超ハイテク製品になってくるとおいそれとコピーなんてでけへんな。せやから」

百合絵「・・・せやから・・・?」

佳奈美「一番手っ取り早いんは、おねえちゃんのメモリーやらハードディスクやらをウチがそっくり頂いてまうことやな。分解や」

百合絵「ぶっ・・・」

裕子「分解!?」

佳奈美「せや。せやから、ウチはおねえちゃんをぶっこわしに来たんや」

佳奈美はそういってにやりと笑うと、ゆっくりと構える。

佳奈美「あんまり派手にぶっ壊しとうない。抵抗せんといてな、おねえちゃん」

すっと目を細めて、そろりと佳奈美が言い放つ。

能久「なっ・・・何をいってやがる・・・!?」

百合絵「やっ・・・やめなさいよっ!!」

裕子「奈美ちゃん、逃げて!」

奈美は動かない。いや、動けない。

奈美「そんな・・・分解・・・分解って・・・」

佳奈美「ほな、いくで!」

佳奈美が動いた。

裕子が、百合絵が、能久が凍りつく。

人間の反射速度を越えた速度で、佳奈美の指先が奈美の眼前に迫る。奈美の視覚センサーが、その様子をぼんやりと捕らえる。

しかし。

猛禽の鈎爪のように伸ばされた指先が、奈美の体に触れる数cm手前で止まった。

佳奈美「・・・やっぱ、おもんないわ。無抵抗の相手を分解するなんてウチの性にあわへん」

先ほどまでの冷酷なまでの冷淡な口調がウソのように、佳奈美はしれっと言い放つ。

裕子「な・・・奈美・・・ちゃん・・・」

思わず床にへたりこむ裕子。

佳奈美「せやなあ・・・せや、今度このあたりで格闘大会やりよる聞いたで。おねえちゃん、それに出えや。ウチも出る。そこで決着つけようや。おねえちゃんかて、素人ちゃうやろ」

百合絵「む・・・ムチャよ!!」

抗議の声を上げる由梨絵。

佳奈美「ムチャかどうかは、おねえちゃんが決めることや・・・したら、今日のとこはこれくらいにしとくわ。おねえちゃん、また来るよって、返事はそのとき聞かせてもらうわ。ほいじゃまた」

そう言うが早いか、佳奈美は窓枠に手をかけひらりと身を躍らせる。そのまま10m以上下の地面に着地し、走り去った。

裕子「な・・・奈美ちゃん・・・」

裕子が奈美を心配して歩み寄る。

奈美「分解する・・・私を・・・」

佳奈美の言葉を反芻し、立ち尽くす奈美。

10年近く生きてきて、初めて自分に叩きつけられた悪意の込められた言葉に、雷にでも打たれたかのように呆然と、いつまでも奈美は立ち尽くしていた。

そして、学園とその周囲の町並みが見渡せる小高い駐車場にある電話ボックスに、つい数分前に3階の窓から飛び降りた佳奈美がいた。

「・・・ああ、教授?会うたで。なんや、エライ甘えんぼちゃんやな。とてもウチのおねえちゃんとは思われへんね。ま、ウチはウチの目的を果たすだけ、やけどね。・・・え?言うたよ。ウチの読みが正しければ、ねえちゃんはちゃあんと試合に出てくるて」

先ほどから『教授』と呼んでいた人物が相手らしい。

「・・・分かってるて。ウチはおねえちゃんのノーマルセクションデータをもろて、教授にクリティカルセクションデータをわたせばええのんやろ。え?クロック?問題あれへんやろ。さっきスキャンしたケド、おねえちゃんはどうみてもノーマルを倍クロックにしただけのカスタムR9チップや。4倍クロック+拡張インストラクションのR9Bを搭載したウチに純粋な演算処理で勝てるわけあれへんて。メモリーはようけ積んでるみたいやけど。あれやな、東京研究所いうても、技術的にはたいしたことあれへんようやな。・・・鷹森一刀流・・・?なんや得体のしれない古武術やろ?・・・え?おねえちゃんが?あの様子じゃ無理やね」

『教授』としばし会話した後、佳奈美は受話器を置いた。

「・・・さて、おねえちゃんはどうでてくるやろな・・・?」

そういって、佳奈美は先ほど出てきた桑園学園の方向を見つめてにやりと笑うのだった。