本名  三鷹奈美(みたか・なみ)
所属 鷹森一刀流道場に住んでいます。私立桑園学園の一年生なのです。 
家族構成  大好きな綾子さんとケンジさんと、綾子さんのお父さんとお母さんと、博士(注:奈美を開発した三鷹研究所の所長、三鷹鉄太郎工学博士のこと)と、あと、道場の人いっぱいです。おともだちもたくさんいます。
好きなもの 綾子さんが大好きです。おいしいものが大好きです。お料理も好きです。
嫌いなもの あんまりないです。塩水がなんとなく嫌いです。 
彼氏イナイ歴(笑) カレシ、って、すごいのですか?
流派  奈美ちゃんは、鷹森一刀流の柔術をちょっと練習しています。でも、みんなにはナイショなのです。 
 
 
 
 

速度、パワーともに平均的。リーチがやや不足か。ジャンプは高く遠くまで届く。その機動性を生かした戦い方が必要。
 
 
穿牙・擦(せんが・さつ) 鷹森綾子の穿牙が太刀から衝撃波を放つのに対し、こちらは地上すれすれを飛行する衝撃波を掌から放つ。 その軌道上、相手の飛び道具と相殺できないケースも多い。 
弧斬・裏(こざん・うら) 肘で打ち上げ、そのあと上昇。鷹森綾子の弧斬が太刀の円運動上の展開であるのに対して、こちらは直線的な軌跡を描く。 
抱月の舞(ほうげつのまい) がさつな鷹森綾子が唯一使いこなせなかった技。相手に背を向けた状態から宙返り、相手を空中から踏みつける華麗な技である。特異な軌道をもった突進技といえる。 
邪破斬(じゃはざん) 上空からの空中とび蹴り。鷹森綾子のものと異なり、多段ヒットはしない。 
真・青龍覇王拳(しん・せいりゅうはおうけん) ストーリーでも紹介されている、最終奥義的な技。全身のエネルギーを掌に集中、一撃で相手を破壊する。移動しないため有効射程はきわめて短い。 
EXレーザー(いーえっくすれーざー) 前作からの必殺技。前作では吹っ飛んだが、今回はそんなことはないようである。当然(?)、前作のような異常な判定の強さと破壊力はない。 
 
 
 
 


 

朝、AM5:30。

「さーて、いっちょ走りこんでくるか」

あたしは顔を洗い終わると、自分で自分の頬をぱしんとはたいて気合を入れた。
早朝のマラソンは日課だ。マラソンが終わった後、少し基本的な技の練習をして、それから朝食、学校へ出かける。
家を飛び出して、あたし・・・鹿島蓮がこの鷹森一刀流道場に転がり込んで3ヶ月が立つ。連絡はしていないが、姉は元気だろうか。少々トロい姉なので心配だが、あたしはまだここに来た目的を達成できてはいない。だから、まだ家には帰れない。

すなわち、「この町で最強の女子高生、鷹森綾子を倒す」という目標だ。

そういえば、噂では隣町の前女(まえじょ:私立前原女子高校)にもかなりの手練れがいるという。「第2の鷹森綾子」ともいわれるそいつ・・・笹本小雪は、やはり剣術だけではなく拳術にも長けており、そのルックスのよさも手伝って、試合には大勢の熱烈なファンが押しかけるという。一度、ビデオでその試合の様子を見たことがある。あたしの格闘スタイルが「一撃重視」、つまり破壊力がある狙いすました一撃を重視するタイプであるのに対して、そいつは「手数重視」、つまりスピードのある連撃でたたみかけるタイプだ。一撃の威力や命中精度はそれほどでもなく、数を当てることで相手の体力を削ぎ落とすのだ。
「それほどでもない」とは言ったが、それはあたしのようなタイプの格闘家と比べて、の話である。並の人間ならば大の男でも太刀打ちできるかどうか、という威力とスピード、正確さがその拳には秘められている。いや、正直あたしでもビデオの中で見た嵐のようなラッシュ攻撃をすべて防ぐ自信はない。
いろいろな相手と試合はしてきたが、こういうタイプとやった経験は少ない。正直、相手にするには苦手な格闘スタイルの持ち主である。が、あたしが鷹森綾子を倒すとしたら、まずこいつが倒せないようでは話にならない。
鷹森綾子より先にこいつを叩くのもいい練習になるだろうと思っていた。
そこに絶好の機会が訪れたのだ。

なんでも、ここの駅前商店街主催の格闘大会に、こいつが出場するらしいのだ。
そして、あたしが転がり込んだこの道場が、この大会への参加を打診してきた。勝てば、鷹森綾子と戦わせてくれるという条件付きでだ(優勝したときに与えられる賞金はこれまでにあたしが踏み倒した食費にあてる、という条件もついていたが、そんなことは問題ではない)。

あたしにとっては願ってもないチャンス。練習にもおのずと気合が入ろうというものだ。鏡を見ながら、あたしは気持ちが高ぶるのを感じていた。

一応居候である関係上、家人を起こさないように、そっと玄関を出る。
深呼吸をした。
少しストレッチ。筋肉をほぐしておいて走り出す。
とそのとき。

「レンさん」

後ろから声をかけられた。

「わわっ!?」

「おはようございます、今日もトレーニングですか?」

薄緑のワンピースの小柄な女性がいつのまにか目の前に立っていた。衣服自体がゆったりしているので、よけいほっそりと見える。一見普通の人間に見えるが、頭の左右にある妙に機械的な部品が、彼女が人間ではないことを物語っていた。
三鷹奈美。それが、彼女に与えられた名前だ。この家に古くから居候を続けている(もう家族同然ということだ)、超高性能アンドロイドなのだそうだ。事実、あたしなどには頭のへんてこりんな部品さえなければ、普通の人間と区別がつかない。

正直言って、あたしはこの子が苦手だ。と、いうのは、あたしが気づかないうちにひょっこり現れたり、いつのまにか消えてしまったりと、正直つかみどころがないのである。
理由は大体想像がつくと思うが、人としての気配がないのである。まあ、もともと機械なのだからあたりまえだが、あたしも一応、並の人間の気配程度なら察知して機先を制することができる。だが、この子には気配そのものが希薄なのである。冷蔵庫や炊飯器などの電化製品と同じような気配しか感じられないのだ。だから、いきなり背後から現れたりするとかなりドキッとする。
もう一つは、予備動作なしに動作できること。普通、どんな格闘家でも、攻撃をする場合には息を詰める、それまでの動きを一瞬止める、目線が止まる、など、それまでと違った攻撃をするときにはなんらかの前兆がある。これはあたしも例外ではない。この、前兆となる挙動を読まれてしまうと、いわゆる「見切られた」状態になり、攻撃が当たらないようになる。そこで格闘家はこういう前兆をなるべく見切られないよう、最小限の動作をするようになる。一般人と比べて格闘家の動きが速い、見えない、というのはこういうところからくる。たとえば、普通の人間が人を殴ろうとするとき、振りかぶって殴りかかるだろう。そうすると、振りかぶった側の手で殴ってくる、というのは容易にわかってしまう。格闘家はこの振りかぶりがないぶん、攻撃が見切りにくいのである。

人によってはダミーというか誘いのためにそういう前兆の動作を何種類か持っており、たとえば「右ストレートを出すときは一瞬目が泳ぐ」「前蹴りを出すときは左手が一瞬下がる」というような誘いの動作を相手にわざと見切らせておいて、突然「左手を一瞬下げておいて右ストレートを出す」というようなことをしてくる場合もある。
相手の行動をその前兆となる動きから読みとって見切るような熟練した相手は逆にこういう単純な小細工にかかったりするのだ(相手がシロウトだと、そもそも前兆を読み取る余裕すらないのでトラップとしての効果はまったくない。このあたりが難しいのだが)。

少し面倒な話になったが、機械ゆえというか、この子にはそういう癖がまったくないのである。
いや、この子が格闘をするということではない。道場にいてこの子が練習に参加するのは見たことがない。この子はいつも練習が一区切りついたときに台所からお菓子とお茶を運んでくるだけで、お茶の時間が終わると茶碗や菓子盆を持ってそのまま奥に引っ込んでしまう。練習の真似事をするのさえ見たことがないのだ。

そうではなくて、普段の動作を眺めていて気がついたのだ。このあたしでさえ、なかなか次の行動を読むことができない。この子に格闘技をやらせたら、かなり強いのではないだろうか。そう思った。

性格は優しい。温和な人当たりのいい子だ。あたしの姉の紫苑にも少し似ているかも知れない。昔は元気でやんちゃだったというが、ある事件をきっかけにおとなしくなったのだという。ここの人間はあまりそれについて語りたがらないが、まあ、なにかいろいろ複雑な出来事があったのだろう。

「毎日大変ですね」

あたしの思惑には関係なく、奈美が人懐っこい笑顔で話しかけてくる。学校では大人気だといわれるのもわかる、かわいい笑顔だ。

「いや・・・好きでやってることだし・・・大変だなんて思ったことないよ」

「私、継続して物事を続けられる人って尊敬してしまいます」

「いや・・・そんなに大したことじゃないよ。・・・それより、どうして今日はこんなに朝早くから?」

「ええ、今日はちょっと充電が早めに終わっちゃったんで、お散歩でもしようかなって思って」

「ふうん」

「あ、トレーニングのお邪魔ですよね。私、もう少しお外を見てきますね」

奈美はぺこりと頭を下げると、門の外へ出ていった。

「・・・あたしも、行くか」

ちょっと水をさされたが、あたしはまた気合をいれると、いつもの道筋を走り出した。

門を出ると右に折れ、さらに直進して・・・。

その様子を、門の傍の電信柱の上から見つめている人物がいた。先ほどひょろひょろと外に出ていったと思われていた、三鷹奈美である。いつのまにそんな高いところに登っていたのだろうか。

彼女はやがてレンが見えなくなると、無造作に飛び降り、庭の玉石の上に音もなく着地した。足には最新の衝撃吸収素材で構成された靴を履いている。もっとも、そんな靴などなくても問題はなかっただろうが。

「・・・どうだい?」

その彼女に声をかける、大きな腹を抱えた女性。いうまでもなく、かつて鷹森綾子と呼ばれていた女・・・石動綾子である。

「・・・本当にいいんでしょうか・・・」

少し心配そうな顔で奈美が綾子に尋ねる。

「あんたらしくもない。昔のあんたはそんなじゃなかったよ」

「それは私だって少しは大人になりましたから」

「パンツ丸出しで電信柱から飛び降りてるようじゃ、まだまだ子供だよ。今度からあんな派手なことをするときはジーンズでもはいとくんだね。・・・まさか学校でもあんなことしてるんじゃないだろうね。あんたは一応『年頃の女の子』なんだからね」

綾子は困った顔で奈美をたしなめ、そして不意に真顔に戻って続けた。

「・・・どうだい?」

「・・・たぶん勝てると思います。レンさんと私が、このままのコンディションで大会当日を迎えたなら」

言葉を選ぶように、奈美はゆっくりと答える。

「ふうん・・・あたしの出る幕はないってことか」

残念そうに、ため息混じりで綾子はつぶやいた。

「でも、急に参加しろなんて、どういうことですか」

「ちょっと見てみたくなったんだよな。あいつが本気ならどうなるか」

「本気・・・ですか?私が相手なら、本気になる・・・っていうことですか?」

「ああ。奈美、あんたにはあたしがみっちり教えた技の蓄積がある。言ってみれば、あたしの正当な後継者ともいえる。そのあんたが全力で戦いを挑めば、きっとあいつは本気になる」

綾子は自信ありげに断言する。

「今度の商店街対デパートの試合では本気にならないんでしょうか」

「たぶんね。本気になるとしたって、前女の笹本小雪と当たったとき・・・多分それが事実上の決勝戦になる・・・くらいのものだろう。そこまでは実力の半分も出さないで勝ち進むはずだ」

「そこを、私が参加することで本気にさせたい、っていうことですね。・・・ずいぶんレンさんに期待してるんですね」

くすりと奈美が笑う。

「ああ。なんといったって、あたしと戦う予定の相手だからね。少なくとも奈美と互角ぐらいの試合をしてもらわないと話にならないさ。・・・あたしももうじき出産だ。ほんとはじかに試してみたいところなんだがそうも言ってられないからな。その分をあんたに頼みたいのさ。いいだろ?」

「そうですね・・・でも、格闘技なんて久しぶりです。昔どおりに動けるかどうか」

そういいながら、庭の松に吊るしてあるサンドバッグの前に立ち、無造作にすっと奈美は腰を落す。久しぶり、といってはいるが、それは一朝一夕で無造作に出来るようになる動作ではない。とても外見からは想像できないが、今日に至るまで相当の練習をこなし、そして実戦を経験したのだろう。

そして、その中で初めて見つけだせる、自分にとってもっとも安定した姿勢。

おそらくは、というよりは間違いなく、毎日欠かさず練習をしているのだ。
それがいつ、どこでなのかはわからない。おそらく、奈美以外には誰にもわからない時間、誰にも知られない場所と方法で練習を続けているのだろう。綾子は知っているだろうか。わからない。一人で練習をしていることは知っているかもしれないが場所は知らないかもしれない。

誰にも知られず、初めて綾子に格闘技を習った日から、たった一人で黙々と奈美は練習を続けてきたのだ。

無言で綾子は目を細め、品定めをするかのようにその様子を見つめる。

「はあ・・・っ」

奈美は息を吐く。いや、アンドロイドに呼吸という概念があるわけではないが、あたかも人間がそうするように、自然に息を吐くような形になる。すばやさを要求される試合の場ではないからか、奈美はさらに腰を落して構える。さきほどまでの温和な表情はどこにもない。触れるだけで切り裂かれそうな、日本刀のような鋭い眼差し。

そして動いた。

「真・・・!」

足をしっかり踏みしめ、奈美はそれまで蓄積したエネルギーを、微かに揺れているサンドバッグめがけて放つ。右の拳がサンドバッグの中心めがけて吸い込まれる。

「青龍覇王拳!」

その瞬間、サンドバッグが自らの意思で身震いしたかのように小さく跳ね上がり、そしてはじけた。中に詰められていた砂が飛び散る。
限界を超えた強大なエネルギーを一点にうけてサンドバッグが破裂したのである。

あとには、ちぎれたサンドバッグの上半分が鎖に繋がったまま、衝撃の余韻を残して揺れているだけだった。松には何の痕跡も残ってはいない。すべてのエネルギーが、サンドバッグのたった一点に集中し、そして炸裂したのだ。

「へえ・・・なんだかんだいってやるもんじゃないの」

綾子が感心したようにいう。

「『それ』を使えるようになってたなんて、あたしは知らなかったよ。何年か前に一回教えたっきりだったのに」

「・・・つい最近なんです」

奈美はにこりと笑って答える。先ほどまでの、触れたら斬れるような張り詰めた空気はどこにもない。いつもどおりの人懐っこい温和な笑顔だ。

「あらかた、あたしの教えたことはマスターしたみたいだね。あとは実戦・・・だけれど、それは試合の当日ゆっくり見せてもらうか」

綾子も技のキレに満足げにうなずく。

「・・・さあ、この子は強いよ、遊びで勝てる相手じゃないはずだ。・・・あんたはどう出る?本気を見せてくれるかい?鹿島蓮・・・?」

来る試合での激闘を予感してか、綾子はにやりと笑った。