ハマグリ刃研ぎセットの作り方 Ver.3.0 2013-06 赤星アイディア工房
ハマグリ刃は、庖丁などの理想的な刃の形状です。
庖丁は、刀身・切刃・小刃、の三段構造となっています。
(図の左の刀身はうんと誇張して描いてあります。)
両刃の薄刃庖丁では、刀身角度が5度程度、切刃角度が18〜25度、小刃角度が30
〜35度、という具合に、刃先に行くほど角度を大きくして耐久性を高め、切刃と小刃を小さくすることで刃先の薄くして切れ味を保持する、という工夫がされています。
さらに、小刃は表と裏の研ぎの方向を略45度に交差させることで、細かい鋸目を作ります。鋸目は庖丁の引き切りの切れ味をさらに鋭くする働きがあります。
刀身につける微少な曲線がハマグリ形状です。ハマグリ刃は、強度を増すだけでなく、庖丁の切り込み性と捌き(さばき)性を良くする働きがあります。刀身が平面だと食材が吸い付いて、切り込む時に抵抗となり、切り離した食材は剥がれ難くなるからです。
切刃の先端には切れ味を落とさないで切れ味を長持ちさせる小刃を付けます。この小刃をハマグリ形状としたものもあり、更に長持ちさせる効果があると言われています。
刀身は薄いほど切れ味が良くなります。薄くする研ぎを「研ぎおろし」といいます。
切刃を研ぐのを「研ぎ直し」といいます。
小刃をつけるのを「小刃止め」といいます。
簡易シャープナーではこの本格的な研ぎはできません。
砥石による研ぎは熟練がいります。良い砥石は高価です。さらに砥石のメンテナンスが大変です。水をしみ込ませ、使用後は乾燥させ、磨耗すると砥石の矯正が必要です。
これらの問題を一挙に解決する方法があります。刀身と小刃のハマグリ形状と薄い刀身と均質な切刃が簡単に研げて、安くて、メンテナンスフリーです。
これと同じ機能の道具を自宅で自作する方法を公開します。
材料費はほどほどです。デザインは良いとはいえませんが、機能で劣ることはありません。使う工具はノコギリとカッターだけ。ホームセンターで切ってもらえばノコギリもいりません。
A.道具の自作で用意するもの
銅板 2枚 厚さ0.3mm 巾100mm 長さ365mm
ユニホビー 素材シリーズ HC0316 相当品 価格例 1枚 \577−
クリアパイン集成材 3枚 厚さ15mm 巾100mm 長さ450mm
価格例 1枚 \190−
割り箸 1本
楊枝 数本
弾性接着剤 大きめのもの(120〜135ml)
ボンドウルトラ多用途SU、セメダインスーパーX 相当品 価格例 \890〜1090
ゴム磁石 吸引力の強いもの 1本 厚さ3mm 巾10mm 長さ300mm
(株)ベスト フェライト磁石・ラバータイプ 17-7 0.2kg/10x30価格例 2本 \357
ゴムシート 1枚 厚さ1mm 巾60mm 長さ150mm
Hikari co.ltd 天然ゴム(NR) KGR-1150 1x150x150 価格例 1枚 \119
PPシート 1枚 厚さ0.2mm 巾100mm 長さ150mm
アクリルサンデー PPクラフトフィルム PF-11 0.2x650x460 価格例 1枚 \240
薄くて強めの両面テープ(NITIMS 再剥離一般用両面テープ厚さ0.13mm幅20mm No.5000NS等)
葉書サイズの厚さ0.2mmくらいのプラスチックシート 1枚
粗いサンドペーパーとクッキングペーパー 少々
さらに、下記のものがあると良い。ゲージにします。
厚さ1mm程度の柔らかめの(切り易い)樹脂シート:不要になったファイルの表紙など。
B.研ぎに使う消耗品
研磨剤 1回に少量しか使いません。
荒い研磨剤 300番くらいのアランダム
中の研磨剤 3000番くらいのもの
仕上げ研磨剤 10000番くらいのもの
C.研ぎ直しと小刃止め用の研ぎプレートの自作
C1 クリアパイン集成材2枚を下図のように切ります。
C2 C1の板1組と銅版を接着剤で張り合わせます。
銅版は裏を粗いサンドペーパーで荒らしておきます。
両方に接着剤を塗って貼り付けます。
C3 充分に固まるまで放置します。銅板の角のバリは削り取ります。
C4 板の角に切り目を合わせて、剥げないように注意して、5度程度に折り曲げます。
C5 クリアパイン集成材を365mmに切ります。
C6 C4の銅版の付いた板とC5の板に接着剤を塗り、折り曲げが5度になるように割り箸と楊枝を入れて接着します。図の右の間隙が9mm程度、左が4.5mm程度です。
C7 充分に固まるまで放置します。
C8 余分な割り箸を切り取ります。
C9 防水のために木部全体に接着剤を塗り、固まったら完成です。
D.研ぎおろし用の研ぎプレートの自作
D1 C1で切ったクリアパイン集成材1組を用意します。
D2 銅板の裏を粗いサンドペーパーで荒らします。
D3 D1の板とD2の銅版を接着します。
D4 充分に固まるまで放置します。銅板の角のバリは削り取ります
D5 板の角に切り目を合わせて、剥げないように注意して、1度程度に折り曲げます。
D6 プラスチックシートを下記の寸法にカットした短冊を作ります。
巾10mm、長さ約97mm 重ねて0.6mmになる枚数
巾10mm、長さ70mm 重ねて1mmになる枚数
D7 巾10mm、長さ約97mmの短冊を0.6mmに重ねて、15.5mmの位置に貼り付けます。
巾10mm、長さ約70mmの短冊を1mmに重ねて、57.5mmmの位置に貼り付けます。
接着できないプラスチックシートの時は穴をあけてホッチキスの針を打ち込みます。
D8 充分に固まるまで放置します。
D9 継ぎ目に接着剤を詰めます。
D10 平らなところに置いて傾斜部にも重しをかけて充分に固まるまで放置します。
接着剤がつかないように、クッキングペーパなどを敷くと良いでしょう。
D11 防水のために木部全体に接着剤を塗り、固まったら完成です。
Ver.1.0とVer.2.0で平らな研ぎおろしプレートを作ったものを改造する場合は、下記のようにします。
d1 銅版ギリギまでノコで切り目を入れます。
d2 ノコ目の巾に軽くつまる程度の葉書の枚数を調べます。
d3 葉書を下記の寸法にカットした短冊を作ります。
巾12〜13mm、長さ97mm d2の枚数
巾12〜13mm、長さ140mm d2の枚数
d4 d3の短冊を重ねて貼ってスペーサを作ります。
d5 D7、D8と同じく、短冊を接着剤やホッチキスの針で固定します。
d6 ノコ目に接着剤を入れ、d4のスペーサを詰めます。
d7 D10と同じように平らなところに押し付けて固めます。
E.位置決めケージの自作
E1 300mmのゴム磁石を半分に切り、150mmの長さのものを2本作ります。
E2 磁性面同士をくっつけて、極性を確認します。
E3 コーナーカットする位置に印をつけます。
E4 両面テープで定規などを貼り付けて、端面を1mm弱残して、削ぎ取ります。
ヤスリや荒いサンドペーパーで削るのが安全です。
カッターの場合は、滑って手や腕を切らないように!無理に切らないで、ゆっくりと。
手で持たないで、机に貼り付けて、カッターは両手で持ってスライスする方が安全です。
E5 コーナーカットした側に、10mmピッチでゴム磁石の巾10mmの半分までカッターで切り込みを入れます。
E6 少し湾曲させて、完成です。
F.工作用のケージを作るとこの後の作業が楽です
要らなくなったファイルの表紙などの厚めの樹脂シートを下図のように切ります。
半径500mmは、薄い木の棒に間隔約500mmの穴をあけて、ピンと鉛筆で樹脂シートに描いてから、カッターか鋏で切ります。または、穴にピンとカッターを入れて樹脂シートを直接切る方法もあります。
下図は、このページ(6頁)をA4の紙に印刷すると、半径が約500mmの円弧が描かれるようになっています。印刷した紙を樹脂シートに(事務用の合成のりなどで)貼り付けて、カッターか鋏で切ります。
G.研ぎおろしジグの自作
刀身を薄くする研ぎおろしに使うジグで、庖丁に貼り付けて使用します。
刃先からほぼ均一の巾の研ぎおろしが簡単になります。
研ぎおろしは荒い研磨剤で行うので、このジグは徐々に磨耗します。磨耗に従って刀身にも僅かな丸みがつきます。このジグは一回づつの使い捨てです。
僅かな丸みがハマグリ形状です。
このジグは、Hで作る研ぎ直しジグにも使います。
G1 厚さ0.2mmのPPフィルムの裏に両面テープを並べて貼り付けます。
梱包などに使われている透明プラスチックシートの廃物を流用することもできます。
G2 Fで作ったケージで、G1の両面テープの部分のフィルムを巾5mmに切ります。
テープの長さは150mmです。
Hで作る研ぎ直しジグ用に2枚必要です。
一回の研ぎおろしに2枚使います。都度、カットしても良いし、作り溜めておいても良いでしょう。
H.研ぎ直しジグの自作
切刃の角度が刃渡り全体に均一になるようにするジグで、庖丁に貼り付けて使用します。従来のように研ぐ角度に神経を使う必要がなくなります。
また、Cで作った研ぎ直しプレートの傾斜部で使うことで、小刃のハマグリが簡単に研げるようになります。
H1 Fで作ったケージで、厚さ1mmのゴム板を下図のようにカッターで切ります。
半径500mmの円弧の間隔(巾)は15mmです。ゴムテープの長さは150mmとします。
2枚作成します。
H2 同様に、巾10mmのテープを作ります。
1枚作成します。
H3 同様に、巾5mmのテープを作ります。
1枚作成します。
H4 H1のテープ1枚に、H2のテープを下図のように貼り付けます。
接着剤は両方に薄く塗り、少し放置してから貼り付けます。
H5 H1のテープ1枚に、H3のテープを下図のように貼り付けます。
H6 H4とH5のテープにG2のテープを粘着させます。
G2のテープの貼り付ける位置に注意してください。
H7 H6の2本のテープの裏に、両面テープを貼り付けて、余分な部分は切り取ります。
貼り直し可能な両面テープだと便利です。
薄くて粘着力がちょっと強めのものを選んでください。超強力では剥がし難くなります。
以上で、道具の製作は完了です。
補足
荒い研磨剤は、ホームセンターか金物店で手に入ります。砥石の矯正に使う金剛砂などです。ただし荒すぎる場合があります。先日手に入れたのは何と40番(0.5mm)でした。これでは荒すぎます。金剛砂は鋭利で刺さって残ります。荒くても250番くらいのアランダムなどが良いでしょう。
仕上げの研磨剤は、ホームセンターではめったに売っていません。
ホームセンターには、車体を磨く液体コンパウンドを売っています。3000、7500、9800などがあります。
コンパウンドには石油系溶剤が入っていて吸ったり触ったりすると害がありそうですから、流用する時は、容器に移し、ペーパータオルで蓋をし、室外に何日か放置して、溶剤を飛ばします。
磨り減った砥石があるなら、砥石を削って作ることもできます。
研磨剤は、特殊な金物店では売っていることがあるようです。
通販には色々あります。 例 http://www2.odn.ne.jp/mandaraya/kennmazai.html
庖丁の研ぎ方は別冊「ハマグリ刃研ぎセットの使い方」を見てください。
主な変更点。
Ver.2.0
Ver.1.0では歯磨きペーストを使いました。鉄分での手などの汚れは取れやすいのですが、滑るのと、研ぎの力が若干低下するようなので、Ver.2.0では歯磨きペーストの使用をやめ、液体洗剤入りの溜め水を使うように改めました。
Ver.3.0
Ver.1.0とVer.2.0では研ぎおろしプレートは平面でしたが、Ver.3.0では両端に1度の傾斜をつけたので、刀身のハマグリ形状がより確かに作られるようになりました。
位置決めケージの極性の確認とコーナーカットを追加しました。
注意
本件には特許を出願しています。
個人が自作して使用することは自由にできます。
自作して無償で進呈することもできます。
この原理の道具を無断で製造販売をすることはお断りします。
商品化を検討される場合は、下記にご連絡ください。
工具や用具や材料の扱いについては、それぞれの注意事項に従って作業してください。