二十中劫 解説

(『十善法語』より)

☆ はじめに

この二十中劫という言葉は、妙法蓮華経提婆達多品第十二に二回出てくるだけです。たった四文字のこの解説に仏教の人身観、宇宙観が含まれているのですから、仏法の深遠さに驚かされます。
 人間の平均寿命は現在、八十才前後ですが、仏説によると、今は七十才ということになります。本文に出てくるように、人寿百才の時に釈尊がご出世され、百年に一才づつ寿命が減じ、仏滅後三千年たっているので、七十才というわけです。
 現代は医学の進歩により乳幼児の死亡率が減って、平均寿命が延びているように見えますが、実情はどうでしょうか? 今、本当に健康に暮らしている人は少ないのではないでしょうか。
 環境汚染、食品添加物の摂取、昔に比べてあらゆる物品の品質低下等を考えると、人間の体にとって良いものは何もなく、寿命が延びているとは思えません。成長の早いものは寿命も短いものです。
 また本文には、人間の寿命は八万四千才から十才までを増減するとあって、にわかには信じがたい話ですが、聖書に出てくるアダムやノアは九百才以上生きたとされていますし、また、近年イギリスで、年齢は十才の少年なのに、身体や容貌は七十才位の老人になって亡くなった人が実在したという話を聞くと、この仏説を私は信じられるのです。要は、人間自身の思念と行動が人間の寿命を左右するということだと思います。
 なお文中の難しい字句には、なるべく意味を調べて注釈をつけましたが、辞書に出ていないものもありますので、前後の文脈で意味をご判断いただきたいと思います。
この「二十中劫解説」は、私の恩師、常不軽台学大士がたまたま京都の古本屋で見つけられたという曷城慈雲尊者示衆『十善法語』(藤井文政堂発行)から、恩師が編集されたものを基にしています。(倉田修一 合掌)

☆ 恩師…常不軽台学大士のお言葉

“光”は東方より…(南無先祖「ぎょう」という字養道始祖、常不軽台学国明先生のお言葉)
  一、父母に敬愛する者、隣人に親愛する。隣人に親愛なる者、森羅三千、生きとし生
    けるものを親愛する。この事より世界人類の平和と地上天国が実現する。親愛は
    平和の母体なり。
  一、此の実践者即ち仏子であり、仏使である。故に我身如来なり。我が身の外に更に
    如来あるべきにあらず、と知るべし。
  一、ここに東方善コ仏とは、是の行持者のことである。あな尊しや、此の善コ仏即ち
    世の人々のための永久不滅の光明である。
  一、当に知るべし。是の善コの光明即ち久遠本仏の本地本源なりと。是の久遠本仏の
    本因をば号(なづ)け奉りて……
  南無先祖「ぎょう」という字養道(なむせんそぎょうようどう)……とは唱えまいらせ給う。
  一、されば、光は東方より、我身より。故に経に曰く、三世諸仏は是の持法の者を昼
    夜守護し給う云々。宜(むべ)なるかなである。それ仏法とは道理なりと。信ずべく仰ぐ
    べきである。

      父母も その父母も我が身なり
           我を敬せよ 我を礼せよ

  南無先祖「ぎょう」という字養道(詳しくはお問い合わせ下さい。)



目 次 (リンク箇所にジャンプ後、プラウザ左上の「戻る」ボタンを押すと、元に戻ります。黒い下線のある部分は注釈がついています。
『劫』について
  ☆減劫の時節
  ☆釈迦如来のご出世
  ☆小の三災の第一飢饉災
  ☆下品の厭離
  ☆小の三災の第二疾疫災
  ☆中品の厭離
  ☆小の三災の第三刀兵災
  ☆増劫の時節
  ☆上品の厭離
  ☆壊劫と空劫
  ☆成劫と住劫の時
  ☆衆生の一念より起こる
  ☆人間は小天地

『劫』について

 まず『劫』ということですが、これは極めて長い時間を量る単位です。
 次に、世界の成立から破滅に至る期間を四つに分け、これを四劫といいます。
 これは世界が成立する期間を成劫、成立した世界が持続する期間を住劫、火災、
水災、風災の三災によって、世界が壊滅するに至る期間を壊劫、次の世界が成立するまでの
何もない期間を空劫といい、この四つです。

人寿増減の図

  本文に出てくるように、人間の寿命は
上は八万四千才から下は十才までの間を
行ったり来たりします。
  八万四千才から十才になるまでの間(減劫の時節)
が八百万年かかり、十才から再び八万四千才になる
増劫の時にまた八百万年かかります。
  この一往復(千六百万年)を一小劫といい、
二十小劫(三億二千万年)で一中劫となります。
つまり二十中劫は、六十四億年ということになります。


地球の一サイクルの図

  そして、成劫、住劫、壊劫、空劫のそれぞれの期間は
一中劫で、成劫から空劫までの一サイクル、
すなわち四中劫を一大劫といいます。
そしてこのサイクルが永遠に循環するので、
仏教の宇宙観を無始無終(始めなき始めから終わりなき終わり
…一応の始めは成劫、一応の終わりは空劫)というのです。

  現在の地球は倶舎論によると、
住劫第九の減(九番目の減劫の時節)ということです。
  寿命は直線的に短くなるのではなく、上下しながら
だんだん寿命が縮み、増劫の時節では上下しながら、
だんだん寿命が延びていくということです。


減劫の時節 (寿命が短くなる時代)

  劫初は、人寿無量歳住して、得失是非なし。善悪の名字なし。しかるにこの心動作あり、
暫(しばら)くも止息すべきにあらず。この心相転変し、情欲兆(きざ)すによりて、次第に飲食屋宅、国都聚落、
男女貴賤わかれ、種々の人事おこる。この人事差別の中に世界の法として悪法増長すれば、
寿命も、福コも、相好も、次第に減損す。この時を減劫の時節と云う。善法増長すれば、
寿命も、福コも、相好も、次第に増長す。この時を増劫の時節と云う。
  この減劫の初め、人寿八万四千歳にして、大寒大熱なく、悪風暴雨なく、水旱疾疫の流行なし。
世界動物なり。人心動物なり。長時無事ならず。善に進まざれば必ず悪に堕す。
漸次に世衰う。初めて偸盗の者あり。この時、人寿半(なかば)を減じて、四万歳となる。
執政の者、刑法を制して人民を治む。
  初めはこの刑法を畏(おそ)れて、世間悪事少なし。後は侵す者漸(ようや)く多し。刑法隨いて厳酷になる。
この時、人寿また半を減じて二万歳となる。この後、奸民厳刑を恐れて、初めて妄語あり。
この言語正しきを失う時、人寿また減じて一万歳となる。この後、偸盗妄語のみならず、
殺生両舌の者あり。邪婬嫉妬の者あり。人寿また減じて五千歳となる。
この後、非法悪貧、諸々の邪法増上して、人寿また減じて二千五百歳となる。
この後、悪口綺語の者あり。人寿また減じて千歳となる。
  この後、邪見の者あり。善を作して善の報あることを信ぜず。悪を作して悪の報あることを信ぜず。
父母に孝を作さず、君に忠を尽くさず、老者を敬わず、有コを尊重せず。愚者、智者を師とせず、
自ら用い、自ら誇り、非法を法とし、非道に道を立つ。人寿減じて五百歳となり、二百五十歳となり、
次第に減少して百歳に縮まる。

 (注釈)
「減劫」… 住劫において、百年ごとに人間の寿命が一歳ずつ減じ、
        八万四千歳から十歳になるまでの間の称。増劫は十歳から八万四千歳になるまでの間。
「劫初」… 成劫の初め、世界成立の当初。
「人寿無量歳」… 人間の寿命が計り知れないくらい長いこと。
「得失是非」… 美コと欠点と善し悪し。
「止息すべきにあらず」… とどまらない。 
「聚落」… 人の集まり住む村落。
「貴賤」… 身分の高い人と低い人。
「福コ」… 財物に恵まれること。
「相好」… 顔つき。姿。人相。
「大寒大熱」… ひどい寒さやひどい熱さ。
「水旱疾疫」… 洪水やひでりと疫病。
「漸次…ぜんじ」… だんだん。次第次第。
「偸盗…ちゅうとう」… 人の物を盗み取ること。
「執政の者」… 政務をとる人。
「漸く」… しだいに。だんだんと。
「厳酷」… むごいほどきびしいさま。
「奸民」… わるだくみをする人民。
「妄語」… うそをつくこと。
「両舌」… 両方の人に対して違った事を言い、両者を離間し争わせる事。二枚舌。
「邪婬」… 不正な男女関係を結ぶこと。
「非法」… 法をはずれること。
「悪口綺語…あっこうきご」… わるくちや真実にそむいて巧みに飾り立てた言葉。
「邪見」… よこしまな考え。
「有コ」… コのあること。

釈迦如来のご出世 (人寿百歳の時)

  この人寿百歳の時、釈迦如来、出世したもうとあり。世界の法として、
減劫の中にも、人民善を行ずれば、寿命も福コも、そのままに住して、
しばらく減ぜぬとあり。ただ減劫の法として、善に住する時節は少なく、
悪に趨る時節は多く、仏法の中にだに、悪事に隨順する者は多く、
諸善奉行する者は少なくなりゆく。まして世間には讒諂面諛の者は時を得、
道を守り、志を立つる人は衆人戯哢(ぎろう)す。人寿また減じて五十歳となる。

 (注釈)
「出世」… 出生。お生まれになる。
「趨る…はしる」… 走る。
「隨順」… したがうこと。
「諸善奉行」… もろもろの良い事を行う事。
「讒諂面諛…ざんてんめんゆ」… 他人をおとしいれるため、事実を曲げ、
                           その人を悪く言って、目上の人にとりいる事。
「戯哢」… たわむれてもてあそぶこと。

小の三災の第一飢饉災 (人寿30歳の時)

  這般になり下りては、十善を説き、十善を行ずる者は、諸人ことごとく謗り憎んで、
相共に往来せず十悪を行ずる者は互いに讃嘆隨喜す。この極悪事増長する時、
子の寿命は父より減じ、孫の寿命は子より減じ、かくの如くなりて、四十歳に減じ、
三十歳に促(せま)る時、七年七月七日の雨降りて、世大いに飢饉す。人民餓死して、
十に二、三も残らぬとあり。世間の五穀の種も、朽壊して再び生ぜぬとあり。
これを小の三災の第一飢饉災と名(なづ)く。

 (注釈)
★三災… 水災・火災・兵災。
「小の三災」… 減劫の終わりに起こる刀兵災(互いに凶器をもって殺害する)・
            疾疫災(悪疫の流行)・飢饉災(飢饉が起こる)の三種。
★大の三災… 壊劫の終わりに起こる火災・水災・風災。
「這般…このはん」… これら。この辺。
「十善」… 不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、不両舌、不悪口、不綺語、
         不貪欲、不瞋恚、不邪見の十善をいう。
「謗り…そしり」… 悪く言う。非難する。
「往来せず」… 行ったり来たりしない。
「十悪」… 殺生、偸盗、邪婬、妄語、両舌、悪口、綺語、貪欲、
         瞋恚(怒りうらむこと)、邪見の十悪をいう。
「讃嘆隨喜」… 深く感心してほめ、ありがたがること。
「五穀」… 人が常食とする五種の穀物。米・麦・粟・豆・黍(きび)または稗(ひえ)。
「朽壊…きゅうかい」… 腐ってこわれる。

下品の厭離 (飢饉災のあと)

  総じて人というものは、愁憂すれば善事を思い習う。
この飢饉災に遭って下品の厭離を起こす。勿論、諸々の菩薩、諸諸の羅漢凡人に如同し、
その根機に応じて、少分の十善を教えたもうとあり。
 この時初めて雨晴れて日光を視、人民歓喜して、少分善事に隨順す。
この善事に隨順するに由りて、しばらくこの三十歳の寿命ありて住す。
あるいは四十なるもの希(まれ)にあれども、中夭して三十に満たずして死する者多しとあり。
  この時たまさか粟稗等あれば、世の重んずる所となる。
諸々の金銀珠玉は、隠没して再び顕れず。諸々の錦繍綾羅の色よき絹も再び現ぜず。
諸々の花の美しき色も再び出来らず。諸菓等甘味の物も再び現ぜず。
人の相好も次第に悪しく成りて、その時の相好端麗という人の貌(かたち)は、
今の貧窮醜陋の人の如く。平人通途は今の疥癩の者の如しと云う。
この小善心ある故、世界そのままにて住す。

 (注釈)
「愁憂」… 思い悩み、心配する。
「厭離…えんり」… 汚れたこの世を厭い離れること。
「羅漢」… 阿羅漢の略。小乗のさとりを得た聖者。尊敬さるべき人。
「根機」… 衆生の、教法を受けるべき性質・能力。また、機根。
「中夭」… 若死。
「錦繍綾羅…きんしゅうりょうら」… 美しいぜいたくな衣服、織物。
「端麗」… 形、姿が整ってうるわしいこと。
「貧窮醜陋…ひんきゅうしゅうろう」… まずしくて生活に苦しみ、顔かたちがみにくく、いやしいさま。
「平人通途」… 普通の人のありさま。
「疥癩…かいらい」… 皮膚病やライ病。

小の三災の第二疾疫 (人寿20歳の時)

  減劫の法として、善法は保ちがたく、悪法は増長し、
後ほど悪くなる習い久しからぬ間に、また昔の飢饉災の事を忘れ、我私を主とし、
恩義を思わず、段々悪事長じて、君臣も相欺(あざむ)き、親子兄弟の間にも、互いに長短を求む。
他家の交はただ妄語、綺語、貪欲、瞋恚、殺盗、邪婬のみになる。
その時、相好も福コも更に羸劣(るいれつ)になり、寿命も二十歳に減ず。
  この人寿二十歳の時に、七月七日の疫病流行す。
天地の気候不調なるに就いて、疫疾の鬼神力を得、上下貴賤みな病に臥(ふ)す。
臥すもの多く死す。能縁所縁の習い。この死せし者また「か」という字(かしつ)の鬼となり、
人民を殺害す。この七月七日の災に死する者、前の七年七月の飢饉に十倍百倍すとあり。
此を小の三災の第二疾疫災とす。

 (注釈)
「疾疫…しつえき」… 流行病。
「長短」… 優劣・賢愚。
「羸劣…るいれつ」… やせて弱くなり、劣ること。
「鬼神」… 死者の霊魂。
「上下貴賤」… 位の上の人も下の人も、貴族もいやしい身分の人も。
「能縁所縁」… 主体と客体→死んだ者が生きている者を認識の対象とする。
「か」という字疾」… わざわいのやまい。

中品の厭離 (疾疫災のあと)

 この七月七日過ぐれば、此時中品の厭離を起こして分に隨って善事に依る。
菩薩、羅漢、凡夫に如同して、一分の十善を教う。この時初めて日月の光も清く、
天地の気候もしばらく調(ととの)いて、疫病の流行止む。少分善事の力に由りて、
二十歳の寿命ありてしばらく住す。

 (注釈)
「日月」… 太陽と月と。

小の三災の第三刀兵災 (人寿10歳の時)

  世界減劫の法として、二十歳に過ぐる者、二十歳に満ずる者は少なく、
満せずして死する者は多し。久しからぬ間に、また疫疾の患を忘れて、万事ただ己が欲に従う。
 父子あるいは相傷う「きょう」という字の母を食する如く、君臣或は相凌ぐ豺狼の食を争う如く、人民の私増長して、十悪のみの世界となる。
同じ十悪といえども、今の十悪よりはまたさらに熾盛なること百千万倍とあり。
人機も劣りて、少分の道理も一向通ぜず。飲食衣服もいよいよになり下りて、
草葉を以て身を掩い、草実を以て口腹を養う。相好もいよいよ醜陋になり下りて、
今の人より視れば、畜生にも類すとあり。この時人寿また減じて十歳となる。

 (注釈)
「刀兵災」… 互いに凶器をもって殺害する。
「傷う」… 危害を加える。
「鴟「きょう」という字…しきょう」… 鳥のふくろう。母喰鳥ともいう。
「凌ぐ…しのぐ」… おのれの下に押しふせる。踏みつける。
「豺狼…さいろう」… 山犬とおおかみ。
「熾盛…しじょう」… 火が燃え上がるように盛んなこと。
「人機」… 人の心のはたらき。
「粗」… そまつなこと。
「掩い」… おおいかくす。
「醜陋…しゅうろう」… 顔かたちがみにくくいやしいさま。
「類す」… 似かよう。似る。

  生まれて五月を経れば、男女婚嫁をなす。十歳を満ずる者は少なく、
十歳に満せずして命の終わる者は多し。一向悪事のみの中に、殊に瞋恚増長す。
父母その子に於て害心を生じ、子その父母に於て害心を生ず。
兄弟姉妹、君臣夫婦の中に於て、互いに誹謗し、罵詈し、打傷し、損害すること、
猟師の鹿を逐う如しとあり。この時、世界に刀兵災起こるとあり。
 を看れば瞋恚生じ、聲を聞いては瞋恚生ず。国土は純に荊棘林となり、
木石瓦礫「しつ」という字「り」という字の如く、手に取る物ことごとく皆利刀の如しとあり。
瞋恚の熾盛なるに任せて、向かう者を皆互いに殺害す。
手足分段して、その忿りなお止まず、身首所を異にして、更に蹂践すとあり。
この間七日を経、これを小の三災の第三刀兵災とす。
 この災難に人民の死亡するは、前の飢饉疾疫の難よりも百千万倍す。
日月も光彩を失い、天地の気候も常に変わるとあり、その時唯一類善根の衆生、
この闘諍の害を避けて、山中に逃げかくる。これを減劫の底下とす。
人間たる者の果報として、これより悪きはなしと云うことである。

 (注釈)
「婚嫁」… (生後五か月で)結婚する。
「瞋恚…しんい」… 自分の心に逆らうものを怒りうらむこと。
「害心」… 害を加えようとする心。
「誹謗」… そしる。悪口を言うこと。
「罵詈」… ののしること。
「打傷」… 打って傷を与える。
「損害する」… そこない傷つける。
「逐う」… 『追う』と同義。
「他」… 他の人。
「荊棘林…けいきょくりん」… いばらの林。
「木石瓦礫」… 木や石やかわらや小石。
「鉄「しつ」という字「り」という字…てつしつり」… 鉄のはまびし→敵の進路を防ぐのに用いる戦具。
「手足分段」… 手足を区切る。
「忿り」… 『怒り』と同義。
「身首所を異にして」… 胴体と首とを別々にする。
「蹂践…じゅうせん」… ふみにじる。
「一類」… ひとにぎりの…。
「善根」… 安楽な果報を招くべき善因。良い本性、心根。
「闘諍」… たたかい争うこと。
「減劫の底下」… 寿命が短くなる時代の一番そこ。
「果報」… 因果応報。前世の行いの報い。

増劫の時節 (寿命が長くなる時代)

 この七年七月七日の雨、飢饉災は、愛欲の水より増長す。
衆生の心中に愛欲の水増長すれば、世間にこの災起こるとあり。
七月七日の疾疫災は、散乱愚痴より起こる。
衆生の心中に散乱愚痴増長すれば、世間にこの災禍生ずとあり。
後の刀兵災は、瞋恚より起こる。衆生の心中に瞋恚増長すれば、
世間にこの災生ずと云うことである。
 この三毒三災の中に、初の七年七月七日の雨、飢饉災、
次の七月七日の疾疫に死する人よりも、後七日の瞋恚闘諍に係りて死する人の倍々増長するを以て、
瞋恚の大害なることを知るべきである。その七日過ぎて、日月の光彩あらわれ、気候常に復る (注釈)
「飢饉災」… 愛欲の水より起こる。
「愛欲」… 欲望に心を奪われること。
「疾疫災」… 散乱愚痴より起こる。
「散乱愚痴」… 心が乱れて定まらず、是非の区別がつかないおろかさ。邪見。
「災禍」… わざわい。災害。
「刀兵災」… 瞋恚より起こる。
「三毒」… 善根を毒する三種の煩悩(貪欲・瞋恚。愚痴)。
「常に復る」… ふだんの状態に戻る。

上品の厭離 (刀兵災のあと)

 その時、かの隠れ避けし一類善根の人、山中より出見れば、
国土は皆死人相枕し、骸骨縦横して、一の生人を見ぬ。
 しばらくあって、外には一類善根の衆生、山中に遁(のが)れし人ありて、
かしこの山よりも一人、ここなる山よりも一人出で来る。
その時、互いに相見て、親愛の心生ずること、小児の母を見るが如く、
互いに、これはいかなることにてかくありしぞ。
これはいかなることにてかくありしぞ、と云って泣くとあり。
 この時、諸人相集まり、上品の厭離を起こし、再び退転せず、
互いに親子の如く相親しみ、善心を生ず。ここに至り、
菩薩もしくは羅漢世に交り出て、漸次に十善を教える。
 人民悪極まりて善を思う時節なるによって、好絹染色を受けやすきが如く、
先ず殺生を離る。これより寿命増し、父十歳なるにその子二十歳を保つ。
寿命増するによりて、善心を増長し、倶(とも)に善法を行じて、偸盗を離る。
この世界人民ことごとく不殺生、不偸盗を奉行するとき、
父二十歳なるにその子は四十歳を保つ。人民の福分も少しく古(いにしえ)に復す。

 (注釈)
「相枕し」… お互いに枕にしている様子。
「一の生人を見ぬ」… 生きている人はひとりもいない。
「漸次」… だんだん。次第に。
「好絹」… 品質の良い絹。
「染色」… 色をそめること。
「奉行」… 生活すること。
「福分」… 幸運。

  この寿命増じ、世界も漸次によくなるに就いては、その心も自ずから正しく、
此よく邪婬を離る。次に妄語を離る。次に両舌を離る。次に悪口を離る。
次に綺語を離る。次に貪欲嫉妬を離る。次に瞋恚を離る。次に悪邪見を離る。
かくの如く漸々に十善の世に還る。寿命も福コも、相好も、智慧も、次第に増長し、
乃至四万歳の寿を保つ。この時人民の善根いよいよ純熟して、深く後世の罪を恐れ、
慇重に福業を修習し、父母に孝を竭し、主君に忠を尽くし、有コの人を恭敬す。
乃至八万四千歳の寿命を保って減少なしと言うことである。これを増劫と名づくとあり。
 その後、又この十善漸次に衰える。次第に寿命減少す。
減少するに就いて、心麁_になり、十悪次第に現起す。極々の時に至りて、復十歳となる。
 かくの如く八万四千歳より減じて、十歳に至り、十歳より復増して八万四千歳に至り、
増しては減じ、減じては復増す。かくの如く二十増減するを一中劫と言う。

 (注釈)
「漸々」… だんだん。
「寿」… 年齢。
「純熟」… じゅうぶんに熟する。
「慇重」… ていねい。ねんごろ。
「竭し…つくし」… 『尽くす』と同義。
「恭敬」… うやうやしく敬う。
「麁_…そこう」… あらあらしい。粗悪。
「現起」… あらわれ起きる。
「極々」… きわめて。この上なく。

壊劫空劫

 この中劫の数満じて、最後増劫の後、壊劫時至りて、この須彌世界壊滅す。
此時一向に雨露等の潤いなく、七つの日並び出づ。
初にこの日輪、次第に光焔増長し、諸々の薬草等枯槁す。
次に第二の日輪出るとき、大小の溝坑枯竭す。
第三の日輪の出るとき、小河大河枯竭す。
第四の日輪の出るとき、阿耨逹池枯竭す。
第五の日輪、第六の日輪の一分に由りて、大海枯竭す。
第六の一分と第七の日輪に由りて、須彌山大地世界皆焼盡して、灰炭餘影なく虚空になるとあり。
壊劫の初よりこの虚空となるまで、また一中劫を経るとあり。
この虚空(空劫)になり竟て又一中劫の時を経るとあり。

 (注釈)
「壊劫」… 火災、水災、風災の三災によって、世界が壊滅するに至る期間。
「空劫」… 次の世界が成立するまでの何もない期間。
「壊滅…かいめつ」… こわれてほろびること。
「七つの日」… 七つの太陽。
「日輪」… 太陽。
「光焔」… 燃える火。ほのお。
「枯槁」… 木が枯れること。
「溝坑」… みぞやあな。
「枯竭」… 水分がかれてなくなる。
「阿耨逹池…あのくだっち」… この上なく大きな池。
「須彌山」… 仏教の世界説で、世界の中心にそびえ立つという高山。
「焼盡(焼尽)」… すっかり焼けること。
「灰炭餘影なく」… もえがらのあとかたもない。
「虚空」… 何もない空間。
「竟て…おわりて」… 尽き終わる。

成劫と住劫の時

 この空劫已(おわ)りて、次に成劫の初め、空中に雲布(し)いて車軸の雨降る。
それよりして次第に世成立し、光音天より人間に下生して、無量歳住す。
この間にまた一中劫を経るとあり。
 この後、住劫の初めに成りて八万四千歳住し、乃至減少し十歳に至り、
十歳より増して八万四千歳に至る。世界の規則違(たが)わず、また二十増減して、一の火災ありと云う。
かくの如く七つの火災ありて、一の水災ありと云う。
水災とは、水輪より水出て、世界皆水に漂わさること、塩を水に浸す如しとあり。
初めの火災は初禅天まで壊す。この水災は二禅天に至る。
かくの如く七つの火災ありて一つの水災あり。七つの火災ありて、一つの水災あり。
七々四十九返の火災、七返の水災ありて、次の風災ありと云う。

 (注釈)
「布いて」… (雲が)広がってすみずみまで行き渡ったさま。
「車軸の雨」… 車軸のような太い雨足で降る雨。大雨の形容。
「光音天」… 色界第二禅天の第三天。ここに住む神々は口から浄光を発して、
          言語の用をなすという。極光浄天・光曜天ともいう。
「下生」… 神仏がこの世に出現すること。
「水輪」… 仏教の宇宙観で、須彌(弥)山世界を支えているとされる巨大な水の層。
「初禅天」… 四種の禅定を修して生まれる色界の四つの領域(初禅天〜第四禅天)の一つ。
★四種の禅定… 精神統一の四段階(初禅〜第四禅)。四つの段階的境地。

  此の風災は風輪際より毘嵐猛風起こりて、世界の物を吹倒す。
日輪月輪、諸天の宮殿をも吹きちらし、互いに扣撃して微塵となる。
諸々の須彌鉄圍山をも吹きちらし、互いに扣撃して、微塵となる。
たとえば、米麦の粉をちらす如しと云うことである。
この三災を前の飢饉等の小の三災に対して、大の三災と名づく。
  これよりして、又、世界成立して、七つの火災ありて一つの水災あり、
七つの水災ありて一つの風災あり。七々四十九の火災、七つの水災ありて一つの風災あり。
また、七つの火災七つの水災ありて、一つの風災あり。この風災は第三禅天に至る。と、仏説にかくの如くある。

 (注釈)
「風輪」… 須彌(弥)山世界を支えて虚空に浮かぶとされる巨大な層。
「毘嵐猛風」… 大暴風。
「月輪」… 月。
「扣撃…こうげき」… たたいてうつ。
「微塵」… こまかいチリ。
「須彌(須弥)」… 須弥山の略。
「鉄圍山…てっちせん」… 須弥山を中心とする四洲の外海を囲む九山のうち、一番外側の鉄でできている山。

衆生の一念より起こる

 これも小根劣機なる者は、得信すまじきことである。
なぜぞ、肉眼の所見でなく、思慮の及ぶところでなきである。
肉眼の当たりまえ、人中思慮の当たりまえを以て云へば、この世界成壊の法は虚妄と云うも可なりである。
もし夏の蟲蜉蝣などを集めて、この人中四時の規則を説かば、得信すまじきことである。
なぜぞ、蜉蝣が当たりまえを以て云わば、この四時二十四気、七十二候の規則、人間万般の事業は、
虚妄と云うも可なりである。この人間の天地の間に起滅する、彼の蜉蝣に異ならざれば、
この世界成壊の規則は、人間の知るべきところならず。たとえ強いて解し得るも、人事に益なし。
但し宿福深厚の人のみありて、仏説に信を生じ、これを以て自ら心地を照らす。
麁細融攝し、古今該羅して、優に聖域に入るのである。

 (注釈)
★三界… 衆生が活動する全世界を指す。
欲界(色欲・食欲の二欲の強い有情の住する境界。上は六欲天から下は八大地獄まで。
その中間に人間の住む世界をも含む。)・色界(欲界の上にある天界で、物質的なものがすべて清浄である世界。)
・無色界(一切の色法…肉体・物質の束縛を離脱した、受・想・行・識の四蘊だけで構成する世界)の三種の世界。
「小根劣機」… 能力・素質の劣っている事。
「得信すまじき」… 納得しない。信じない。
「所見」… 見たところのもの。見た事柄。
「人中思慮」… 人間界の考え。
「虚妄」… 真実でないこと。いつわり。
「可なり」… 可能である。
「蜉蝣」… かげろう(朝生まれて夕べに死ぬという虫)。
「四時」… 春夏秋冬の四季。
「二十四気」… 立春・夏至・秋分・大寒など季節を示すのに用いる語。
「万般」… すべての物事。
「宿福深厚」… 前世に積んだ福コが奥深い。
「心地」… こころもち。心境。
「麁細融攝」… 荒いと細かいのがとけあう。
「古今該羅」… 昔と今とが兼ね備え連なる。
「優に」… じゅうぶんに余裕のあるさま。
「聖域」… 聖人の境地。聖人の域。

 何者か主宰となりて、この世界成壊安排布置す。この初めの火災は、衆生の瞋恚より起こる。
次の水災は、貪愛婬欲より起こる。終りの風災は、散乱より起こる。
四大の成壊三毒の縁起、いずれの処より来るぞ。唯これ現今衆生一念心上の安排布置である。
この一念心亦蹤跡なし。元来生なく滅なく、来なく去なし。悟らんと欲せば直に悟れ。
汝が一念心、元来不可得である。迷わんと欲せば迷え。汝が一念心上の愛水世界をうるおして生ず。
生ずる者は必ず滅す。生滅ある処必ず来去あり、年代久近あり。小の三災、大の三災あり。
この三千世界、同時に生じ、同時に滅すと云うことである。

 (注釈)
「主宰」… 中心となる人。
「世界成壊」… 世界の生成と破壊。
「安排布置」… 物事をほどよく配置する事。
「貪愛婬欲」… 強い執着や男女間の情欲。
「散乱」… 心が散り乱れ、定まらないこと。
「四大の成壊」… 一切の物体を構成する地・水・火・風の四元素の生成と破壊。
「三毒の縁起」… 善根を毒する三種(貪欲・瞋恚・愚痴)の煩悩が起こる因縁、もと。
「一念心」… 心に深く思うこと。
「蹤跡…しょうせき」… あとかた。事跡。
「不可得」… とらえることができない。
「来去」… 行ったり来たりすること。
「三千世界」… 我々が住む世界の全体。仏の教化する範囲(仏世界)。

人間は小天地

 儒者の中にも、この世界壊滅あることは、古より言い伝えることである。
近世ある者が、天地の間は生ありて滅なし、生々してやまずと云うは曲談である。
古人も、この人間を小天地と名づく其あるべきである。この人間、生有りてこの滅あり。
眼に見る所である。この人間生滅あれば、この天地も生滅あるは必然の理である。
この生滅有りてその規則ある。また必然の理である。
 元来縁起麁細一致である。牛馬の主人を識(し)る。木に棲(す)むものの風を知る。
穴に居る者の雨を知る。芭蕉雷聲に葉を開く。の日に向かって転ずる。
小物といえどもその規則差(たが)いなきである。この中、小人は小事を識る。大人は大事を識る。
自心の及ばざる処、他も知るべからずと云うは不是である。

 (注釈)
「儒者」… 儒学を修めた人。
「生々…せいせい」… 生いたち育つさま。
「曲談」… 正しくない話。
「理」… 物事の筋道。ことわり。
「縁起」… 他との関係が縁となって生起すること。
「麁細一致…そさいいっち」… 大きい事も細かい事も道理は同じである。
「芭蕉」… 高さ5m内外の大形多年草。
「雷聲」… かみなりの音。雷鳴。
「葵」… 大形の花をつけるアオイ科の草。
「不是」… 正しくない。認められない。
★七十二候…陰暦で、自然現象に基づく七十二の季節の区分。
         五日を一候、六候を一月、七十二候を一年とする。
★三千世界…須弥山を中心に、日・月・四天下・四王天・三十三天・夜摩天・
         兜率天・楽変化天・他化自在天・梵世天などを含んだものを一世界とし、
         これを千個合わせたものを小千世界。それを千個合わせたものを中千世界とし、
         それを千個合わせたものを大千世界とする。大千世界のことを三千大千世界ともいう。

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