特性曲線法による河川、地下水槽等の開水路流れ
(第2報 遷移水路編) 酒井義武
1.まえがき
近年、都市拡大と共にその周辺の緑地が減少し一旦雨が降れば排水場に雨水
が集中することから大深度地下水路とその末端に設けられたポンプ設備により
この大量の雨水を排水する方法が考えられている。地下水路は管路であり、そ
の流量の増減により2種類の流れが発生する。
初期の降雨状態ではこの水路は開水路流れとなっている。降雨量が次第に多く
なるにつれ水路の一部が開水路流れから管路流れに遷移し、降雨が止むと元の
開水路流れに戻るという経過をたどる。このように開水路流れと管路流れが共
存する流れ状態を水路の遷移流れと呼ぶ。
水路に流れ込む流量変化に伴う遷移流れの状態を把握しまたは予測すること
は水路設計や排水ポンプの流量制御を検討する上で重要である。遷移流れを水
路と管路の基本式に基く解析例は散見される。本論文は管路流れを開水路流れ
の特殊な流れとみなすことにより水路の基本式のみ用いた解析について考察し
たものです。
2.基本式
水路流れは非圧縮性流体の一次元流れとし、その基本式は運動方程式と連続
方程式である。
運動方程式
(1)
連続方程式
(2)
ここに H:水深(m)、V:流速(m/s)、n:マニング係数(m-1/3S)
A:断面積(m2)、t:時間(s)
I:底勾配、q:横流入量(m3/sm)
R:径深(m)、B:水面幅
3.差分方程式
運動方程式と連続方程式は偏微分方程式である。これを線形結合し、2つの
方程式をともに満足するdx/dtが存在するという特性曲線法により次の2
組C+とC−の特性曲線式(差分方程式)に変換する。
図1は点Aの補間点Rと点Bの補間点Sからdt後の点Pを得ることを示す。
dtは時間刻み(sec)、dxは等分割長さ(m)
図.1 規定時間間隔方式の特性曲線
1)特性曲線
(3)
(4)
2)C−特性曲線
(5)
(6)
注 1.圧力波伝播速度aで示すと
2.(4)と(6)式の簡略式は
4.補間点
補間点は波伝播速度a=とθ=dt/dxとすれば
4.1 R点
図1よりを(3)、(4)に代入して代入して整理すると
(A)
(B)
A式から
=
ゆえにVrは
但し、のとき
これをB式に代入し整理すれば
Hrは上式2次方程式の正の解を1/2乗したものである。ただしDは
4.2 R’点
図1よりを(3)、(4)に代入して代入して整理すると
(A‘)
(B‘)
A‘式から
=
ゆえにVrは
但しのとき
これをB’式に代入し整理すれば
Hrは上式2次方程式の正の解を1/2乗したものである。ただしDは
4.3 S点
図1よりを(5)、(6)に代入して代入して整理すると
(C)
(D)
C式から
=−
但し、のとき
これをD式に代入し整理すれば
Hsは上式2次方程式の正の解を1/2乗したものである。ただしDは
4.4 S’点
図1よりを(5)、(6)に代入して代入して整理すると
(C‘)
(D‘)
C‘式から
=
但し、のとき
これをD’式に代入し整理すれば
Hsは上式2次方程式の正の解を1/2乗したものである。ただしDは
5.内部節点
水路全長をN個で等分割した内部節点は式(4)と式(6)から算出する。
但し、水路両端の節点は境界条件を新たに必要とする。
また分割数Nは全長を(|v|+a)dtで割った数値を整数化したものとする。
6.境界条件
開水路下流端に水槽がある場合の境界条件で説明する。
ポンプ等で水槽から流出中に突然その流出が止まったとき、水槽水位が
上昇する場合を想定した例である。
図.2 開水路と水槽
水槽の式
(7)
ここに AR:水槽の平面積
QP:水路から水槽へ流入する水量
QO:水槽から流出する水量
添字J:前の時間
開水路の式
開水路の下流端であるから式(4)を用いる。
式(4)を簡単に示すと
流路断面積Aを両辺に掛けると
(8)
式(7)と式(8)をQP、HPについて解く
7.管路と開水路の特性曲線式の同一性
管路と開水路にはそれぞれ運動方程式と連続方程式がある。
管路と開水路の特性曲線式の同一性を明らかにすため、解説し易い様に
差分方程式に変形した管路と開水路のC+特性曲線について解説する。
7.1 管路と開水路のC+特性曲線
管路と開水路のC+特性曲線を圧力H(開水路は水深H)と流速Vで表し
て併記すると
管路のC+特性曲線
(1’),(2’)
開水路のC+特性曲線
(3),(4)
管路流速が等しく、管中心の傾きが小さいときとおける
から(1’)式は
(9)
これを変形してL=adtとすれば
これは圧力差が管路抵抗に等しいをこと示している。
つぎに開水路の流量と水深が等しく、横流入量とすれば
(3)式から
(10)
これは勾配Iが水路抵抗に等しいことを示している。
7.2 管摩擦係数fと開水路のマニングnの関係
今径Dの円形断面で且つ満水の場合、(9)式と(10)式の左辺が等しい
とき、管摩擦係数fと開水路のマニングnの関係は開水路の満水状態(水
深Hが管径D以上)は径深R=D/4を用いて
(11)
7.3 開水路の波の伝播速度
開水路は説明の都合上図.3の円形断面とする。
流路断面積A、水面幅Bとすれば波の伝播速度は (12)
この開水路がもし満水状態(水深Hが管径D以上)になれば水面幅Bは0
となり(12)式から開水路の波の伝播速度acは無限大となり不都合となる。
図.4の実線がこの推移を示す。
実際は、満水状態になれば開水路流れは管路流れとなるから、acは一定値
の管の圧力波伝播速度apになる。図.4の破線がこの推移を示す。
そこで(12)式のacの代わりにapと置けば、水面幅Bは
(13)
ここにBは仮想的な水面幅(仮想スロット)と呼ばれ一定値をとる。
図.5参照
図.3 円形断面の水路 図.4 遷移水路の水深と伝播速度の関係
{denpa}
図.5 仮想的な水面幅(仮想スロット幅)
{slot}
水深が上昇を開始すると波の伝播速度も数mから次第に大きくなって管頂を
越えた瞬間から管の圧力波伝播速度(1420m/s 程度)になるので、水面幅
Bを仮想的な水面幅(仮想スロット幅)に置き換える。水深が管頂より下がれば
もとのように実際の水面幅に戻す。
8.距離と時間
差分方程式は規定時間間隔方式とし時間刻みdtと距離dxは共に等間隔にとる。
差分方程式が発散しないためには下記クーラン条件を検討する必要がある。
dx≧(v+a)dt (14)
管の1245m程度の圧力波伝播速度apと時間刻みと距離が(14)式が成立
する様に決めておくと開水路の数m程度の圧力伝播速度acについて(14)式
を満足するのは明らかである。
9. 計算例
全長150mの円形断面の開水路の計算例を示す。満水状態の開水路の下流
端水槽(断面積 100m2)のポンプの流量が突然半減した時の水槽水位についてシ
ミュレーションしたものである。管の圧力波伝播速度は518mとし、200
秒間のトレンド図を図.5に示す。
比較のため同一条件で管路についても計算した。このトレンド図は図.6
に示す。2つを比較すれば水路または管路のいずれでも同じ結果となった。
図.6 開水路水槽の変動水位
{FCT11R.BMP}
図.7 管路水槽の変動水位
{F5LR.BMP}
10.アニメーション
ここでは4本の立坑のある全長220mの開水路(円形断面)の下流端
に接続する水槽のポンプが急停止して水槽流出量が0.004m3/sから7秒後
0に減少したとき、400秒間の水位アニメーションを表示する。
立抗からの流入量は変化しないものとする。
図.8 アニメーション図
11.まとめ
この遷移水路は水路内の空気については考慮していない。満管状態になれば
水路から円滑に空気が排気されるものと仮定している。従って水路内の残留空
気によるエアーハンマー、エアークッションが発生するおそれのある場合の水
路については本論文の遷移水路の理論をそのまま適用できない。これについて
は今後の研究課題と思われる。又、実水路への適用に際し模型実験装置による
実測値との照合は是非必要であり今後の課題として取組みたい。
<参考文献>
(1)杉谷恒也他,遷移系水路のシミュレーション,電業社機械,Vol.18,No.2,
1994
(2)古川博彦他,開閉共存型地下河川の水理挙動解析,クボタ
(3)宮代裕,開閉路の非定常流の解析,流体工学,Vol.10,No.4
特性曲線法による河川、地下水槽等の開水路流れ
(第1報)