弾道計算ソフト2000 Classic
操作マニュアル


 気象条件の考慮
  空気中を猛スピードで進む弾頭にとって、空気抵抗は弾道に大きく影響します。また、気象条件によって気圧や、湿度が変化しますが、これらの条件は空気抵抗を変化させます。空気圧が高ければ空気の密度が高くなり、空気抵抗が増え、弾の降下量が大きくなります。逆に、空気が薄くなれば抵抗も少なくなります。極端な話、全くなくなれば真空中であり、真空で空気の抵抗はありませんから弾速はいつも一定になってしまいます。アポロの宇宙飛行士が月面で羽とトンカチを落として、同時に月面に着地させたりする実験もありました。しかし、空気のあるところでは空気抵抗があるので羽根はフワフワと落ちますから、トンカチが先に落ちます。
空気の密度は温度、気圧、湿度、高度で変化するために、これらの係数を考慮してBCの値に反映させ弾道計算します。弾道計算ソフト2000 Classicでは、気温、気圧の高度計算において近似式は使用せず、アバディーン標準大気(またはICAO標準大気)における各高度の気圧表から補完して算出しておりますので近似誤差は少なくなるように設計されています。
大気の状態は0mから11Kmぐらいまで、1kmにつき5℃気温が低下しますし、気圧も高所に行くに従って徐々に減じていきます。水平に撃つことが多い弾道計算においても、弾が上がって下がる間に僅かに気圧、気温が変化しますので、計算ではこれらを考慮します。また、撃ち上げ、撃ち下げの場合などは特に気圧が大きく影響しますので、大気の状態を刻々と弾頭の空気抵抗に反映して弾道計算を行います。また、ドラグファンクションはマッハ数で定義されますので、温度変化が音速に影響してドラグファンクションが変化するのも、弾道計算に反映させています。これらの考慮は最初のバージョンから計算に反映してきておりますが、バージョン2からはICAO標準大気での計算を以前のバージョンの大気計算と完全に分離して追従する様に変更しております。
気象状況の測定機器の精度は、℃において小数点以下1桁、気圧においてhPa表示で小数点以下1桁が一般的な精度であるという前提をしています。実猟において移動しながらの射撃ですから、気温、気圧の精度はもっと悪くなります。一般的な30-06の初速2800fpsでBC=0.5の場合、温度差が±0.1、気圧が±0.1hPaの場合1000mで2mm程度の誤差ですので、温度測定に高い精度は要求されません。ただし、海面更正されているデータと、実際のデータと取り違えた場合は大きな誤差が発生します。
海面更正とは、天気予報で発表される気圧、気温の値です。一言に地上と行っても、山は高いし、海沿いは低いです。気圧は高いところでは低くなりますから、内陸の高度の高い地域はいつも低気圧になってしまいますが、天気予報ではそうなりません。天気予報では海沿いの街でも、山間の街でも、等しく同じ基準の気圧を公表することになってます。高い場所の気圧は低いですから、低いところと比較することが難しくなりますので、天気予報では、海抜0mの気圧に変換して公表することにしてます。これを海面更正といいます。日本地図で天気図の等圧線地図を見たことがあると思いますが、山があっても海があっても関係なく、きれいな縞模様で線が引かれています。山があれば標高が高くなるので気圧は大きく下がるのですが天気予報では高い地点でも、海沿いの地点でも、高気圧が来た時は大体1000hPaと予報され、等圧線が乱れることはありません。これは、山の上で測定した気圧を海面での気圧に変換して天気図を作っているからです。
日本では東京湾の平均海面高度を0mとして、どんなに高い山の上でも、その0mで更正した気温、気圧を表示する事になっています。天気予報で1013hPaと言われたとき、標高500mの射撃場では1013hPaではなく、気圧計の実測値は955hPaです。気象条件の気圧は射撃場の気圧を入力されていると仮定していますから、誤差が出てきてしまいます。そこで、海面更正アリの情報なのかを指定する機能があります。
弾道計算ソフト2000 Classicでは、「海面更正あり」のチェックボックスが 「オフ」 の時、実際に射撃をする場所で測定した絶対値の気温、気圧、湿度データが入力されているという前提で計算を進めて行きます。天気予報などで公表されている値は海抜0mで補正された値ですから、これを入力すると期待と違った結果が得られる可能性があります。その場合は「海面更正あり」のチェックボックスを 「オン」 にしてください。状況の変化をあらかじめ予測したい場合で、猟場の気象台のデータしか無い場合に御利用いただきたいと思います。
更正には変換誤差がつきものですから、射撃場でゼロインしたときはそのときの高度、気温、気圧、湿度を実測してデータ入力することをおすすめいたします。
また、横風も気象条件の一つです。完全に真横の風の場合は着弾点を左右に変化させます。一方、追い風、向かい風の場合は着弾点の上下に関係します。追い風が強ければ、空気との相対速度が減るので、弾頭の減速が少なくなるために、着弾点の降下量が小さくなり上に当たるようになるからです。風の影響を計算するときは、無風状態で一旦弾道を求めた後、風の影響下でどの程度変化するかを表示するために、追い風や向かい風があれば、指定したゼロ距離を弾道が通りません。
弾道計算ソフト2000 Classicでは、標準大気をクラッシックなアバディーン標準を使っております。理由は今日の弾頭メーカーから出版されている弾道表で示されているBC値は、このアバディーン標準大気の海抜0feetの気象条件における値が公表されているからです。従って、BCを逆算させるときは次の海抜0feetの標準大気を使用しなければなりません。

 気温:59F (15℃)
 気圧:750mmHg (29.53inHg、1000hPa)
 湿度:78%
 高度:0ft

これらの値は出荷時設定に使用されておりますので、変更なしに弾道表の弾道とマッチングされた状態です。V.1.24以降のバージョンにおいては、ICAOの標準大気に対応しておりますが、これらの標準とクラッシックな標準値とは各高度における気圧が異なります。降下量が大きくなる計算や、高度が違う計算においては、弾道位置での気圧が異なり、気圧・気温から求まる空気密度の計算と音速の計算に差が生じ、BC値や音速から計算するドラグファンクション値が違ったものになります。結果として双方で弾道がずれてきますのでご注意ください。高度1000m付近で双方の違いは30-06(初速=2800fps、BC=0.5)の弾道において500mで1cm程度の差が生じます。
今日においては、BC値が公表されず4DOFや6DOFで使用するドラグ係数だけが公表されている場合もあり、この場合のほとんどがICAO標準大気下で計算されますので、そういった弾道と比較する場合は、気象条件タブの「ICAO標準」のチェックボックスをオンにしてください。
弾道計算ソフト2000 Classicで使用するICAO標準大気(0m)は以下のようになっています。

 気温:59F(15℃)
 気圧:760mmHg(29.93inHg、1013.25hPa)
 湿度:0%
 高度:0m

尚、多くの他の弾道計算ソフトでは、湿度0%はあり得ない環境なので50%がディフォルトになっていることがありますが標準大気とは違いますのでご注意ください。バージョン2.3からICAO標準が出荷時設定になっております。市販の計算ソフトの値を使用してBCやドラグファンクションを逆算する場合や、webの計算サイトのドラグファンクションのBCを予測する場合はオンにしてください。ただ、ICAO標準であっても無くても、気象条件タブでアバディーン標準大気の高度0フィートの気圧、気温、湿度で計算する場合は同じ実効BC値になります。しかし、アバディーン標準大気とICAO標準大気では、同じ高度における気象条件が違いますので、高度が大きく異なる場合は、それぞれの結果に差異が生じます。Webの弾道計算サイトや、市販の計算ソフトでも両者の違いがありますが、おおかたICAO標準大気に近いものが多いので、結果を使用したり、比較するときはICAO標準大気で計算してください。
実際の大気は、場所によって大気の組成が微妙に違ったり、湿度が風によって大きく変化したりしますので、アバディーン標準大気がよく現実に合うかICAOが良いのかは実猟で判断いただく事になりますが、高度1000m付近で双方の違いは30-06(初速=2800fps、BC=0.5)の弾道において500mで1cm程度です。

  
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