弾道計算ソフト2000 Classic
操作マニュアル
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鉄砲の弾が撃ち出されたあとは重力によって自然落下していきます。この状態を放物線を描くと言いますが、実際は空気抵抗によって弾の速度が減少して遅くなっていきますから、弾が進んでいくにつれて放物線よりも、もっと落下が大きくなります。一定の速度で進んでいればきれいな放物線になるでしょうけれども、先に進むにつれて弾速が遅くなるので、一定の距離を進む時間が長くかかります。時間が長くなれば落下量も大きくなって、歪んだ放物線になります。この曲線を「弾道」といいます。スラグの場合は最初1900fps(fps
= フィートパーセカンド、秒速580m)ぐらいだった弾速が、100m先になると1500fps(秒速460m)ぐらい、200mで1200fps(秒速366m)ぐらいになります。
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鉄砲の構造上、銃身の上にスコープ(又はアイアンサイト)を配置するのが普通です。
弾の進む方向とスコープ(又はアイアンサイト)を平行にして撃つと、最初はほぼ狙ったところに当たりますけれども、遠くに行けば弾道が下に曲がってくるので、獲物に当たらなくなります。
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弾道は、初速が速ければまっすぐになるし、空気抵抗が少ない弾はまっすぐに行くようになりますが、いつかは下に落下してしまいますから、遠くに離れた獲物には当たらなくなります。そこで、遠くに居る獲物の場合は、若干上に向けて弾丸を撃つことで狙ったところに当たるようにします。
スラグの場合は50mで降下量が3cm(フェデラルライフルドスラグなど)、ライフルの場合は100mで降下量が5cm(30-06など)です。これは、ほとんどまっすぐですから近くを撃つ場合は弾道が大きな問題になることはありませんが、スラグの場合は100mとか、ライフルの場合は200m以上の距離にいる獲物を撃つような場合は、弾道は曲がってくるので、狙いに注意する必要が出てきます。
アイアンサイトでもスコープでも銃身の上についています。つまり、銃口は狙った照準より下に位置していますので、銃口では狙いより下に当たります。弾とスコープだけを誇張して表現すると下図のようになります。
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このように、狙った所に当たるように調整する作業を「ゼロイン」といいます。通常、銃身の向きを上向きに変えるとは表現しないで、「サイトを合わせる」と表現します。サイトは下に調整すれば、銃身の角度を上向きにしたのと同じ事になります。
ところで、狙ったところに当たるというのは、青い狙い線と赤い弾道がぴったり交差している点だけです。それ以外は弾と狙いが離れているので、ぴたりと当たりません。
弾道の特性から、狙い線と弾道が一致するところは、撃ち出してすぐの点と最後の点の合計2カ所だけで、後は狙いよりも下とか上にずれます。猟では獲物はいろいろな距離に居て、それに当てる必要がありますので、自分の鉄砲で弾を撃った場合の上下に変わる弾道を、あらかじめ把握しておかないと狙ったところに当りません。
弾道は計算によってあらかじめ得ることが出来ます。計算した結果を数値で表示する場合、取り決め事がいくつかあります。
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一般的な弾道計算の数表では、狙い線より上を「プラス」、狙い線より下を「マイナス」で表現します。そして、狙い線上を「ゼロ」と表記します。最初に弾道が狙い線と交差する点を「ファーストクロス」といい、二回目に交差する点を「セカンドクロス」と表現します。
このファーストクロス、セカンドクロスともに、「ゼロ」と呼びます。
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弾道計算ソフト2000 Classicにおいては、セカンドクロスの距離を「ゼロ距離」と表現します。一般の弾道計算ソフトにおいてもそのように表現されているからです。日本語ではゼロイン距離とも表現されることもありますが、英語ではZero Rangeと表記される事が多く、これを直訳するとゼロ距離です(英和辞書でRangeの和訳には、範囲、距離、圏とあります。この場合はセカンドクロスまでの距離という意味です)。
さて改めて、この図を見ますと、弾丸とスコープの距離=「スコープの高さ」が変わってしまうと、ファーストクロスも、セカンドクロスもずれてしまいますし、打ち上げ方向が変わっても同じです。また、弾速が遅くなれば当然、弾丸はもっと手前で下に落ちてしまいます。いろいろな条件で弾道は違った物になります。これらの条件(速度や空気抵抗などの数値)を入力しなければ弾道を計算することは出来ません。
「ゼロ距離」をはじめとして、「スコープの高さ」や、鉄砲の弾の「初速」、弾の空気抵抗を示す「弾のBC値」などが弾道の計算では必要な情報になってきます。
「弾のBC値」とは以下のような物です。
空気抵抗で速度が遅くなってくると、進んだ距離が短いのに落下量が多くなるので飛距離が短くなります。空気抵抗の大きさは弾頭の形状によって変わってきますが、同じ勢いで飛ばした場合、空気抵抗の少ない弾の方が遠くまでまっすぐ飛びます。
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弾の空気抵抗の大きさは、弾のBC値(弾頭係数)によって指定することが出来ます。これは速度に関わらず弾の形と重さで一定の値に決まります。BCが大きい方が空気抵抗が少なく、まっすぐ飛ぶ弾頭で、BCが小さい方が空気抵抗が大きく、弓なりに大きく下がっていきます。
上記をまとめますと、弾道計算に必要な大まかな要素は以下の3項目になります。
(1) 初速(発射速度)
(2) 弾のBC値(弾頭の空気抵抗)
(3) ゼロ距離と、スコープの高さ(撃ち上げ方向を決めるための要素)
市販の装弾を購入すると、その箱や、装弾メーカのホームページにその弾の初速や、BCの値が記載されていたり、100ヤードでゼロインした時の弾道などがありますので、これを参考にすることになります。初速やBCは弾を買ったときに決まった値になり、ゼロ距離は射撃場や猟場に合わせて好きな値に決めます。実際の設定方法は、このマニュアルの「簡単な弾道計算の例」を参照してください。
さて、BC値は弾の形状と弾の重量、弾の口径によって決まります。したがって、BC値さえ得られれば、口径や重量、形状は弾道計算に必要ありません。
弾のBC値 = 抗力係数(空気抵抗の係数) * 弾の重量 ÷ 弾の口径
ところで、弾の空気抵抗を示す「抗力係数」は気圧や温度、高度変化に応じて変化しますので、弾道を計算するには気象条件も必要になってきます。
同じ弾頭でも、空気の薄いところ(気圧が低い高所)では、当然、空気抵抗が小さくなり、まっすぐ遠くまで飛びます。しかし、気圧が高い所や温度の低いところでは空気の密度が濃くなりますから、空気抵抗は大きくなり、すぐに速度が落ちてきて、遠くまで飛ばなくなります。これは、空気の密度によって、BCの値が変化すると言うことです。空気密度の濃いところではBC値は小さくなり、反対に空気密度が薄くなるとBCは大きくなります。
気象条件によって空気密度が変わりますから、BCの値も変わってしまうので、基準となる気象条件が定められています。
BCの値を定める気象条件は、高度0mでのアバディーン標準大気です。
アバディーン標準大気
高度 0m
気圧 750.0mmHg (1000.0hPa)
気温 15℃
湿度 78%
上記標準大気はBRLのアバディーン実験場のもので、現在公表されているシエラやホナディなどの弾頭メーカから公表されているBCの値はこの標準大気の0mでの空気密度を基本にしています。従って、装弾ケースに記載されている弾道や、Webで公開されている弾道からBC値を逆算する場合はこの気温、気圧、高度、湿度を使用して逆算する必要があります。弾頭のもつBC値はICAO標準大気制定よりも前から在るもので過去からの一貫性を保つため、アバディーン標準大気の0mでの空気密度が使われています。BC値を左右するのは空気密度であって、これは気圧、気温、湿度が決まれば一意に決まります。アバディーン標準大気とICAO標準大気とでは、各高度における気圧の定義が違います。しかし、各高度における空気密度が異なるだけであって、高度差があれば双方の条件下で計算した弾道が異なりますが、高度差がさほど無ければ双方の計算結果は極めて近いものになります。
さて、マッハを超える弾の空気抵抗は速度によってその抵抗が大きく変化しますが、この現象はBC値では表現できません。そこで、この現象によるBC値の変化を決めるドラグファンクションを計算に使用します。BC値とドラグファンクションで各速度に応じた空気抵抗が算出され計算に使われます。弾道計算ソフト2000
ClassicでサポートするドラグファンクションにはG1、G2、G5、G6、G7、GS、GLの7種類に加えて、自在に変形して独自のドラグファンクションを作成するツール、他の弾道データからドラグ係数を逆算してCSVファイルを作成する機能、これを読み込んで弾道計算する機能を提供しております。G1~GLまでの関数は主にBRL(文献1)で測定され文献2、3で公表されているものに準拠しています。
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スラグにおいては、GS、GLドラグファンクション、サボットにおいてはG1ドラグファンクション、その他、付属データファイルのドラグファンクションを読み込んで、色々な形状の弾頭の弾道を計算することが可能です。弾道計算にはBC値が必要ですが、G1及び、一部G7以外は、メーカーから公表されていません。弾道計算ソフト2000
Classicではメーカーから公表されている弾道データ、または、実射によって得られた弾道データから合わせ込み計算を行ってBC値を求めることが出来るように設計されています。また、メーカーのウエブサイトや、弾のケースに印刷された弾道データに距離・速度のデータがあれば、そこからドラグファンクションを近似計算して求め、弾道計算ソフト2000
Classicの計算方式によって再計算させることも可能です。 ライフルにおいて、G1ドラグファンクションは多くの弾頭メーカのリローディングマニュアルに記載されて使われています。したがって、リローディングマニュアルに記載されている弾道と同じ様な弾道を計算したい場合は、G1ドラグファンクションを使用してください。一方、VLD弾頭のような、空気抵抗を減らす工夫がなされている弾頭の場合は、速度による空気抵抗の変化がG1の物と異なり、G1で計算する弾道とは若干違った低伸弾道を描きます。今日の猟用弾頭ではVLD弾頭も多数ありますので、それに近い空気抵抗の変化を計算できるG7ドラグファンクションを使用してください。それ以外にもいくつかのタイプがあり、弾頭の形状に合わせて使い分けてください。各ドラグファンクションのBC値はG1のBC値を利用して弾道計算ソフト2000 Classicの合わせ込み機能で猟で使う距離範囲において最も近接する弾道のBC値を得ることが出来ます。
文献1:Ballistic Research Laboratories, Aberdeen Proving Ground, Maryland.
Ordnance Corps, Department of the Army.
文献2:Exterior Ballistics of Small Arms Projectiles , E. D. Lowry, Research
Dept., Winchester-Western Division, Olin Mathieson Chemical Corporation,
May 4, 1965.
文献3:Modern Exterior Ballistics Eddition 2, Robert L. McCoy
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MPBRとは、マキシマム・ポイント・ブランク・レンジ(maximum point brank range)の略です。
弾道は歪んだ放物線を描きます。一旦上がってまた下がるようになるので、距離が遠くなればどんどん下に当たるようになります。一方、着弾させたい獲物には急所があり、これは心臓や、肺といった臓器です。これらの重要な臓器にヒットさせて捕獲する事になりますが、臓器にも大きさがあります。例えば頭、心臓、肺などで大きさが違います。いろいろな距離で獲物を捕獲する場合、弾道の上下の上がり下がりで、外れたり当たったりする事になります。
この臓器の幅が25cmであると分かっていれば、弾道計算したときに一旦上に上がって下がってくるその幅が25cm以内の距離であれば、獲物が近くても遠くても弾は必ず重要な臓器のどこかにヒットする事になります。
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獲物の生命を維持する重要な臓器のある範囲をバイタルゾーンといいます。弾頭の初速や空気抵抗が分かっていれば、バイタルゾーンの幅の範囲内で弾頭が上下する最大距離を突き止めることが出来ます。その最大距離範囲をMPBRといいます。MPBR計算に使用する上下の幅の事をPBR幅といいます。
PBR幅はバイタルゾーンの幅を入力するのが基本ですが、当てたい範囲を指定することの方が有効です。例えば、シカの場合は心臓や肺のある急所の幅は大体25cmぐらいだとしても、頭を撃って捕獲したい場合は頭蓋骨中心部分のサイズ(5cm前後)の幅になります。このように、当てたい範囲を指定して計算することによって、よりいろいろなケースに対応する弾道を突き止めることが出来ます。また一方で、銃の精度、腕の精度といろいろなブレの要素があるので、これらを考慮して若干少な目に設定するなどの考慮も必要になります。常にぎりぎりで余裕がない計算をしても、はずれになる可能性が高くなります。この計算ソフトでは、PBRの幅をある程度自由に設定することが出来るので、いろいろなケースで計算し
評価することが出来ます。
くわえて、分析図においてはこのMPBR計算で使用した範囲をグラフィックに水色の枠線で表示するので、銃の集弾度合いの青線のグラフィックカーソルと共に比較する事が可能です。
また、分析図においてはPBR幅は赤線のグラフィックカーソルでその幅を表示します。集弾の幅と行ったブレの要素も青線のカーソルで表示されますので、比較していただくと、捕獲できる範囲を調べることが出来ます。
分析図の縦や横のサイズの割合は自由に変更できますので見たい範囲がよく見えるように調整することも可能です。
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