弾道計算ソフト2000 Classic
操作マニュアル


 標的画像の活用(II) 遠距離射撃のシミュレーション
弾道計算ソフト2000 Classicには、オスジカ、メスジカ、イノシシ、クマ、ヒグマ、シカの群のシルエット画像が付属してきます。
このうちシカのシルエット図を利用して遠距離射撃のシミュレーションをしてみたいと思います。

まず、遠距離射撃においては実射で着弾点を確認できない日本国内においては弾道の把握も風読みなどと同じく、不確定要素を減らして射獲確率を高くするのに必要な事です。300m以上の射撃場が近くに出来てもらいたいとお思いも方も多いかと思います。弾道計算ソフト2000 Classicは実際に射撃をして得た実データから実際の弾道を、G1ドラグファンクションやG7ドラグファンクション、気象条件の変化等の補正を加味して、計算された弾道を実際の弾道にフィッテイングして、実猟に使うことを目的としています。弾道計算ソフト2000 Classicでは既存の計算式を元に弾道を精密に得ることを目的としておらず、実際に撃って得られたデータから弾道を表示する様に設計されています。多少の不便はあると思いますが、実猟で射獲確率を上げるためには架空の弾道でアバウトな計算をするのでは無く、300m以内でも実際に撃って得た弾道から得たパラメーターを元に外挿して実際に近い弾道を得ることが必要であると考えます。このように弾道計算ソフト2000 Classicは300m以上の射撃場の無い日本にマッチした計算ソフトです。

 
 実射によるデータの収集
  上記の趣旨に沿って、遠距離射撃のシュミレーションをするには、まず、射撃場で着弾点のデータを得ることが第一ステップになります。使用する装備は以下のように仮定します。

  口径 30-06
  実包 バーンズ VOR-TX 150gr TSX
  スコープ リューポルド VX-III 2.5-8
  ゼロ 200m
  スコープの高さ 1.7inch(4.3cm)

人によってやり方はまちまちですが、基本に戻って100m、200m、300mの順番でサイト調整&弾道把握をしてみます。
100mで10発撃ち、以下のデータを得たとします。

  100mでの結果
  グルーピング 6cm(10発最大値)
  センター エレベーション6.5cm ウインテージ-3cm (10発の平均)

グルーピングとは、10発撃って最も遠い弾痕の距離です。センターは10発分の縦方向の位置関係、横方向の位置関係の平均地点です。例えば、最初の一発の縦方向は標的の中心から左に2cm、上に4cmの位置、次の二発目は、標的の中心から右に0.5cm、下に1.2cm、・・・・・と言うように10発全部について、それぞれの方向毎にデータをまとめます。縦方向と横方向それぞれについて足し併せて10で割った値=平均点を求めます。縦方向の中心値が、上記のエレベーションの値になりますし、横方向の中心値がウインテージの値になります。こうして10発のばらついた着弾点の中心位置を割り出すことが出来ます。統計的には10発より正確にしようとすると次は100発の平均値になりますので10発で平均を出すのは、不確定要素を出来るだけ減らす必要のある遠射においては必須条件となり得ると思います。
この時点でサイト調整をすると、エレベーションをDown方向に4クリック、Right方向に2クリックとなります。200mの的に入らない補正量ではありませんし、300mの的でも問題ないでしょう。しかし、一般的な手順として大きくずれていても補正しておくことで対応できますので、ここでは形式的に補正致します。

次に、200mで10発撃ちます。弾道を求める場合は正確な着弾地点を割り出す必要がありますので、統計的に意味のある最低限の数のサンプルが必要になります。このため、200mでも10発撃つ必要があります。例えば、500mの獲物を撃つときに200mで10cmの誤差があれば、20cm以上の誤差が500mで現れてしまう事を考えれば、妥当な数です。

  200mでの結果
  グルーピング 10cm(10発最大値)
  センター エレベーション-11cm、ウインテージ-1cm(10発の平均)

200mゼロですから、これを修正してゼロにします。左右は合っていると考えられますから、上下に変更します。Up方向に6クリック修正して200mゼロとします。

次は300mです。500mでの射獲を目標とする場合、出来るだけ遠くの標的のデータを得ることで、少しでも実際に近づけることが出来ます。従って、可能な限り遠距離の実射データは収集するべきです。

  300mでの結果
  グルーピング 22cm(10発最大値)
  センター エレベーション-24cm、ウインテージ-10cm

上記は全て射撃場で行っておきます。
次は、このデータに沿って、実際にこの銃がどのような弾道になるのか合わせ込みを行います。射撃場によっては200mがなくて150mの場合がありますが、そんな場合でも150mゼロで最初は合わせ込みを行い初速やBC値など弾道を確定した後に200mでゼロになるように最終的にクリック補正します。弾道計算ソフトが無くても同じようにやるのが常套手段です。弾道が確定していないときに推定で200mゼロとすること自体が正確性を欠くからです。

 合わせ込みと弾道の割り出し
ハンドロードでも市販装弾でもそこに記載されている既知の弾速データーはあくまで工場のテストライフルで撃った場合の値であって、個人で所有する銃とは違います。そこにはライフリングの違いや、口径の製造誤差、ツイストレートや銃身長の違い、汚れや経年劣化の具合など、工場のテストライフルとは異なる条件が無数にあり、弾速も同じになるという保証はどこにもありません。近距離、中距離が主体の猟であればこれらは大きな問題になりませんが、300mを超える遠距離の猟では成功、失敗を分ける程の違いになる可能性があります。したがって、今撃ったデータを元に、出来るだけそれに近い弾道を予め得ておいて、遠距離での狙点を把握することが必要です。
合わせ込みを行う場合は、射撃場でクリック補正した分を差し引いて、最終的にセットしたスコープの状態で狙った場合の着弾点に修正する必要があります。100mの着弾点は、その後以下のようにクリック補正しました。

  100mのクリック補正  D4 R2 (Down方向に4クリック、Right方向に2クリック)
  200mのクリック補正  U6 R0 (Up方向に6クリック、左右変更無し)

これを集積すると、100mのデータを補正するには、U2、R2となります。リューポルドのVX-IIIは1クリック1/4MOAですから、縦横それぞれ1.5cmの修正を加えます。
また、同様にして200mのデータは、試射した後、U6、R0補正していますから、縦に9cmの修正を加えます。こうして、現在スコープの設定で撃った場合の着弾点をおおよそ得ることが出来ます。
横方向の着弾点のずれは、上下の弾道に使えませんので、縦方向だけ考慮します。

  100m着弾点  5cm
  200m着弾点  0cm
  300m着弾点  -24cm

VOR-TXの初速は工場出荷で以下のような弾道になると、公表されています。

  初速 2970fps
  100yds 1.6inch 200yds 0inch 300yds -8.4inch 400yds -20.4inch 500yds -41.5inch 

計算精度の都合で、出来るだけ遠くのデータで合わせ込み計算をおこない、この弾頭のBC値を逆算してみます。

 


 


 
逆算の結果は、BC=0.420になります。この値はBarnesの公式ホームページから得られた、TTSX 150gr .308口径の物と合致します。
BCがわかった所で、今回試射したデータを計算してみます。今、初速が問題になっておりますので、初速調整を行います。単位はメートルですから、まず出力設定タブでメートルに変更し、上下表示単位をcmに変更します。

 


 
 
正しいスコープの高さを入力するのはとても大事です。
弾道計算ソフト2000 Classicでは縦横照準オフセットの計算で弾道から求める事も出来ます。

 
遠射で使う合わせ込み計算においてスコープの高さは見かけ上の弾道の違いに直結しますので、正確に計測して正しく変更する必要があります。この理由は、遠射の場合は出来るだけ正しい弾道を見積もる事が大事な上に、合わせ込み計算の性格上、弾道が5cm違うと合わせ込んだ弾速が200fps以上も変わってしまう事もあるからです。合わせ込み計算自体は弾速が問題なのでは無くて、実測値と同じような弾道を描き、遠い距離においても実際に近い数値を出すことが目的です。スコープの高さの違いが、弾速の違いとして合わせ込んだ弾道では、遠距離での正しい弾道予測にならないからです。そこで、弾道計算ソフト2000 Classicでは縦横照準オフセットの計算で弾道から求める事も出来ますので、縦横照準オフセット機能のページをご覧ください。
その後、先ほどの実測データと計算結果を入力します。

 


 


 
600m迄の弾道が得られました。この弾道予測は、100m地点で6mmの違いがありますが、200m地点で0mm、300m地点で6mmの違いとなります。600mでその誤差が300mの2倍になったと仮定しても、12mm程度の誤差となりますので実猟上問題ないと思われます。初速の違いが若干目立ちますが弾速の測定値において、同じテストライフルの同じレシピでもSD(標準偏差)が50ぐらいになる事があります(±2SDの範囲が±100fpsとなる)ので、違うライフルでという事になれば83fps減の違いは異常な値ではないと考えられます。加えて、弾道が問題になっておりますので、実際に撃って得られた弾道を外挿するだけであると割り切った考えをすると、初速の違いは問題にならず、300m以降の弾道がどうなるかが重要です。

  初速 2883fps BC値 0.420 スコープの高さ4.3cm ゼロ 200m

この例では、カタログスペックと合わせ込み結果に大きな違いはありませんでしたが、実際にはもっと大きく異なることがあり得ます。その原因としては、第一にスコープの高さが実際とは違っている場合や、弾頭の歳差運動の影響や、気象条件の違いでで見かけ上のBC値が大きく異なったりした場合、又は、弾道を割り出す時の勘違い、少ない弾数による弾道測定値の誤差がある場合です。射撃場の距離よりも遠い距離を割り出したい場合は誤差が拡大されますから、最底10発は撃ち、気象条件の違い、スコープの高さの計測に留意する必要があります。100mの実測値で150m、200mの割り出しを行うスラッグでも、同じような配慮が必要になります。

 
 標的画像の活用
弾道が実射から割り出されましたので、実際の猟においてどのくらいの狙いになるのかを、付属のシカのシルエット画像を使用して吟味したいと思います。

  初速 2883fps BC値 0.420 スコープの高さ4.3cm ゼロ 200m

上記パラメータをメインコントロールパネルの弾道計算タブで入力します。



 
次に計算結果の表示をメートル単位に変更します。

 


 
次に標的画像タブの標的画像を表示するチェックボックスをクリックし、オスシカを選択します。

 


 
そして、リューポルドスコープにあった照準画像にするために、分析図設定タブで601dot、目盛り幅10ドットFOV単位mに変更します。そして、その他のタブで、300mで得られたグルーピングを、300mで22cmと入力します。

 


 


 
分析図を起動し、100m前後に分析図のカーソルを移動すればシカのシルエットが見えます。距離を変更していくと、シカのどの範囲に着弾していくかがわかります。

 


 


 
この集弾幅を見る限りは、500mぐらいまで行けそうですが、10発グルーピングの場合は、もっと沢山撃った場合の実際の着弾地点のばらつきは2~3割も大きくなってしまうのが常ですから、400mぐらいが限界になると思います。この確認には、弾道計算タブのPBR幅を40cmと、シカの胴の大きさとして入力し、諸条件のタブで、集弾幅を3割増しの30cmと入力し、ついでに弾頭重量150grと修正しておき、分析図で確認できます。
標的の写真を撮って、標的集計図で分散値(σ)を計算し、バラツキ度合いを正確に把握して2.58σの範囲で集弾幅を指定する事をお勧めします。

 


 


 
分析図ボタンを押し分析図を再起動させカーソルを移動させます。赤枠のバイタルゾーンと、青枠が重なり合うところが射獲範囲となります。この銃の射獲範囲としては400m迄がばらつき範囲の限界となりそうです。エネルギー的には600mでも十分ですが精度不足とあっては、いたずらに半矢を増やすだけとなって賢明ではありません。

 


 
分析図のカーソルを移動させてみて、シカのどの辺を、レチクルのどの部分で狙ったらいいかが感覚的に掴めると思います。
また、この照準画像は、スコープの見かけ上の視野にほぼ一致しますので、スコープに映るシカの大きさが表現されています。リューポルドのデュープレックスレチクルの太線と細線の堺が、レチクル画像の一目盛りに該当します。400m、500m、600mではクリック補正して撃つ必要がありそうです。照準図のクリック補正で最短の目印まで補正する場合、何クリックで補正できるかも分かります。

後は実践のみです。300m以上は実射で確認できませんから猟果で判断となります。
弾道計算ソフト2000 Classicでは風の影響なども考慮することが出来ますので、この照準画像を活用して、安全で豊かな猟になる事を願っております。
 
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