弾道計算ソフト2000 Classic
操作マニュアル


 CANT角とは
   一般の射撃においてCANT角(カント、キャントかく)とは、標的に向かって鉄砲を後ろから見た場合の鉄砲の左右の傾きの事をさします。
標的に向かって銃を構えるときは、水平・鉛直を保ったまま構えることが前提になっています。もちろん、スコープだけでなく、オープンサイトでも同じです。本来、狙いをつけるときは銃身の中心(銃口の真ん中)で狙いをつけるのが計算上理想的ですが、銃身には弾が込めてあるので銃身の上にサイトを乗せて狙うしかありません。このとき、弾の出る位置と狙いをつける位置が違うので、狙いと当たるところが上下にずれてしまいます。サイトが銃身より4cm上に付いている場合は、サイトから見て真正面に狙っても、弾が出るのはそれより4cm下になります。一般の鉄砲では、銃身の中心とスコープの中心は後ろから見て鉛直線上に位置することが前提です。これが傾いていると正しい照準は得られません。
では傾けると、どのような事が起こるか考えてみます。まず、第一に、銃身が傾けた方向に、それてしまいます。第二に、スコープやオープンサイトの鉛直方向の高さが低くなり、かつ、水平方向にずれます。
下の図は銃を後ろから見たシルエットを表しています。右側のシルエットが傾けた場合の物で、下の赤い丸が銃身の中心位置を便宜的に示してあります。図のように左に傾ければスコープは若干左に移動しますし、銃身とスコープの中心の鉛直方向の高さは若干低くなります。そして、着弾位置が左下にずれてしまいます。

 
 鉄砲を標的に向かって後ろから見た図
 
銃身から飛び出した弾は、真上に上がって標的の真ん中に当たるようにゼロインします。図の左側のシルエットは鉛直に構えたときの物で、銃身から飛び出た弾が標的に当たるまでを後ろから見た図になってます。さて、この銃を左に傾ければ、銃身から弾が飛び出るとき、スコープの縦線に沿って上に飛び出すわけですが、傾いているので最初はスコープの右からあがって、やがて左にそれてしまいます。結果として弾は標的の左側に当たることになります。そして、実際に傾けて撃ってみれば左に傾けたときは左下、右に傾けて撃てば右下にそれるようになります。
弾道計算ソフト2000 Classicでは、この状況を計算するために諸条件タブのCANT角の欄に、鉛直方向との角度を入力出来るようになっています。銃を後ろから見て左に傾けるときはプラス、右に傾けるときはマイナスの角度を指定します。傾けた結果は「見越し」の欄に数値として表示しますが、「見越し」は狙い位置を示しますので、右にそれるときはマイナス量、左にそれるときはプラス量で表現されますが、着弾位置は左に傾ければ左下に当たり、右に傾ければ右下に当たります。この様子は照準図を見ればわかります。着弾が左側に来るときは、スコープの照準を左の着弾点より右にリード(プラス方向の見越し)して撃てば当たるようになります。

 
 傾けてゼロインしてしまう場合
  スコープを銃に取り付けるときスコープの縦線の延長が銃身の中心に合っていないと、銃をまっすぐ構えたつもりでも傾いてしまっているという事態が発生します。
また別のケースとして、ゼロインするときに左右に傾いた状態で標的紙を貼ってしまったとします。このとき、傾いた標的紙の横線にスコープの横線を合わせて撃つと銃は傾いてしまいます。
傾いた状態というのは、スコープが銃身の真上に来ません。たとえば、銃身の左上にスコープがあり、その状態で100mでぴったり標的の真ん中に当たるように調整したとすると、銃の左側から中心に向けて100mで真ん中になる、斜めの火線になります。
 

 
 この場合、100mを過ぎれば今度は狙いの右側に弾がそれてしまい、結果として100m以外の距離では左右に若干ずれてしまうことになります。このずれは若干なので、あまり気にする必要は無いのですが、自分の鉄砲でどのくらいなのか、あらかじめ知っておくべきです。
スコープが正しく銃身の真上に位置していれば、50mでも100mでも1000mでも、全てスコープの縦線上に狙いをつけることが出来ます。
弾道計算ソフト2000 Classicでは、この状況を計算するために諸条件タブのCANT角の欄に、「CANT角のあるままゼロイン」というチェックボックスがあり、これをチェックすることで間違って銃を傾けた状態でゼロインしてしまった状況での弾道計算をすることが出来ます。

 

 
傾けてゼロインしてしまう要因として、スコープを銃に取り付けるときに間違って傾けてしまった場合があります。
この計算も出来るように、諸条件タブの欄には、「縦照準傾斜角」という欄が設けられています。角度の指定はCANT角と同じで、上図の様に照準が傾いてしまっている状況を指定する事ができます。レチクルだけが傾いていて、銃を鉛直に構えた場合は「縦照準傾斜角」だけを指定しますが、上図のように、照準が傾いていて、かつ、傾いた照準を鉛直、水平に合わせて撃つような場合は、CANT角と縦照準傾斜角を指定し、かつ、「CANT角のままゼロイン」をチェックします。上図のように5°傾けて装着されたスコープを水平に合わせてゼロインを行った場合は、CANT角が左に傾いているので+5°、縦照準傾斜角は右に傾いているので-5°を指定し、「CANT角のままゼロイン」をチェックします。

CANT角や、縦照準傾斜角を指定すると、照準図においての標的画像が変化します。照準図は横照準がパソコン画面の真横になるように表示しますので、標的画像の方が傾いて見える様になっています。一方、分析図や数値計算結果の表示では水平と鉛直が基準になっていますのでご注意ください。分析図と数値計算結果表示では、銃の後ろから見た水平と鉛直は固定している視点で結果を表示します。撃ち上げや撃ち下げは銃を後ろから見た時の奥行き方向の傾斜角をスコープの照準線を基準に表示しますので、お間違えの無いように願います。これらの所作は、猟場において実際の傾きがどうなるかを利用するときの利便性を考慮しており、弾道の比較や、狙い越しの位置関係をわかりやすくする設計になっております。

 
 傾いた標的
蛇足ですが、射撃場で良くある間違いとして標的紙を貼り付けるときに水平を正確に合わせないで射撃場の木枠に合わせて張ったりする事があります。標的紙が斜めに傾いていると、やっかいなことが起こりえます。
標的紙を狙うときスコープの横線を標的の横線や紙の縁に合わせて撃つと、そもそも張ってある紙が水平ではないので銃が傾いていることに気がつかないこともあります。また、標的紙が左に傾いている場合、たとえば100mでゼロインし200mで標的の中心を狙って常に30cm下に着弾するような撃ち方をした場合、標的紙の縦線が左に傾いているため真下に着弾していても、標的紙を回収して机の上で見てみると、縦線から左に離れて着弾した弾痕がついています。はずした標的紙を机の上で見るとき、傾けて貼ってしまった事がわからなければ、着弾位置が左にそれたように誤認してしまいます。
 


実際、傾けて標的紙を貼ってしまった場合は黒点の真下に着弾点が来たとしても、標的紙の縦線からは離れた所に弾痕がつくことになります。さらに、標的紙の横線とスコープの横線を合わせて撃った場合、銃は傾いてしまうので、前述したように弾道がそれてしまい、黒点の真下に着弾せず、傾けた方向に、さらに、それます。この結果、上図のように、ますます、ずれが大きくなります。
いろいろな距離で着弾を得るために試射すると思いますが、その標的が別々の方向に傾いていれば、弾道が左右に蛇行するようなデータが得られてしまうかもしれませんので、標的を貼り付けるときは水平・鉛直に十分に考慮しておく必要があります。それにもかかわらず、射撃場で標的紙を貼るときに水平・鉛直を確認している射手はきわめて少ないのが現状です。100mでもドロップの大きいスラグの場合は、この誤差はライフルよりも大きくなりますので、ご注意ください。

さて、この状況を計算で再現させることもできます。どのくらい傾いたらどの程度着弾がずれるのかを知っておくことはとても重要です。「CANT角」の欄に標的の傾きの角度を入力して計算してみましょう。ずれた標的が手元にある場合は、その標的の角度がわからなくても、ずれの幅を計って、その幅になるようにCANT角を少しずつ変えてみて逆算してみてください。角度を鑑みて、撃った時の事を思い出してみて、あり得る角度なら、「もしかして...」傾けて撃ったか、標的紙が傾いていたかもしれません。
また、その場合の修正方法として、照準図でのクリックを調整してみてください。エラーを修正するには何クリック調整したら良いかをシミュレーションで表示させてみれば、銃の照準を補正することが出来るかもしれません。

弾道計算ソフト2000 Classicでは、CANT角の指定や縦照準傾斜角の指定をすることによって、このようなエラーのある状態での弾道を計算できますので、現状を考慮して数値でシミュレーションしてみてください。そして銃の設定を正すときに、どのようにクリック調整するかを、あらかじめ計算して検討してみてください。

 
戻る